研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -005/066page
校内で指導援助者の数を意図的にしかもさりげなく増やしていく。その際,指導援助者はそれぞれ父親,母親,兄,姉などの役割を分担して対応する。そして,この時注意しなければならないことは,本人に主体的にかかわる指導援助者を明確にしておくことである。
[4] 面接の終了
反社会的行動が消失し,それに結びついていた要因が改善された時点を面接の終了とする。この場合,面接の終了日を予告しておく。それから,面接を終了したあとも本人をあたたかく見守り,必要があればいつでも面接できる関係をつくっておくことも忘れてならないことである。
≪環境調整≫
<親への対応>
親に対する指導援助が必要であるのは,親自身が,無意識に自分の願望を子供に押しつけている,心理的に不安定である,望ましくない養育をしている,子供に対する責任を感じていない,養育についての知識が乏しい,指導力がない,子供の反社会的行動が夫婦あるいは家族問に起因している,自らの性格に問題がある,などの場合である。なお,家族構成に注目し,必要に応じてその他の家族成員に対する指導援助も考慮する。
[1] 親とのラポールを形成する。
親は子供の反社会的行動に悩まされている場合が多いので,その苦悩を分ち合うという姿勢で対応する。特に,親を責めたり,批判する言動は避けなければならない。また,子供の面倒を最後まで見ることができるのは,親だけであり,努力すれば必ず良い報いがあるなどの言葉を添えて,親の心の支えになることも必要である。
[2] 親自身の自己洞察と親の家庭内での指導力の強化を図る
親との面接では,話題が子供の扱い方の巧拙のレベルにとどまりやすいので,指導援助者は,親が親自身の内面を見つめることこそ子供の反社会的行動の改善・解決の早道であることを指導する。このことの動機づけとして,指導援助者がかつて親がそのようなことをして子供が改善された例をいくつか取り上げて話すことも有効である。
反社会的行動の改善・解決には,特に父親の積極的なかかわりが必要である。父親は誠実,責任感,勇気,きびしさ,そして倫理感の象徴であり,多くの場合問題解決の鍵を握る人(key person)であるからである。もし父親がその態度をとらない場合は,父親に対して,「お父さんは何といっても一家の大黒柱です。私(指導援助者)の力量が不足していますので,是非ともお父さんの力を貸して下さい」と,父親の存在と力量を認める肯定的な働きかけをして,父親を前面に引き出す努力をする。
反社会的行動の問題点が少しでも改善されたら,そのことを時をおかず認めてほめることがさらによい成果をもたらすことが多い。その時,そのよいことは指導援助者の力によるものではなく,親自身の努力の成果であることを強調することが大切である。
家族全員の結合力が弱かったり,お互いに葛藤を抱いているなど家族成員に問題がある場合には,家族全体への働きかけが必要である。これには,家族療法の理論と技法に基づいて対応するのが効果的である。
<教師の対応>
反社会的行動をもつ児童生徒の多くは一部の教師との人間関係に不適応をきたしている。それはどく一部の教師がこれらの児童生徒を,何ごとにつけ悪いときめつけたり人格を否定する言動を示すなど肯定的なかかわりをもつことが少なく,時には権力で一方的に押えつけたり脅したりするとともに,親を批判,非難することがあるからである。それが続くと児童生徒はますます問題行動を増長させていったり,好ましい人間関係にある教師へも反感を抱くようになる場合がある。