研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -049/066page
いです。先日も兄の事で自分から兄に何かを言わせようとしましたが,それはお父さんが言う べきとはっきり言ってやりました。驚いたよう でしたが納得したみたいです」 教 「家庭内でいろいろな中心は誰なの?」 本人 「父です」(きっぱりと) 教 「ところで,お父さんとお母さんがけんかした時,君はどうなの?」 本人 「以前までは自分の部屋に行ってしまいたい気持ちでしたが,最近ではやってるなという気 持ちで見ています。どちらが悪いか分かりますので時々意見を言いますよ。前は子供のくせに と言れましたが,最近は言われなくなりましたし‥」 <面接10>
教 「進路はどうするの?」
本人 「できれば○○会社に就職したいです」 <面接11>
教 「お母さん,久し振りですね。最近はいかがですか」
母 「しっかりしてきました。父も本人とよく話をしていますし,今までとはガラッと変ってしまいました。何か,拍子がぬけたみたいです」 母親の言によると,本人は相談室での相談は以前の問題と関係あると思い,相談室に行くことを 悩んでいることであった。したがって,本人とは 手紙による方法で交流をはかることにした。
<教育相談係から母親あての手紙>
過日はありがとうございました。私の不手際か ら,お子さんを悩ませてしまい申し訳けございませんでした。お詑び致します。
<教育相談係から本人あての手紙>
君の気持ちを十分に理解できず悩ませてしまい ましたね。お母さんからお聞きしました。悪かっ たと思っています。……私も教師として何か君の力になれればと思っていました。以前のこととは関係なく。‥…相談室はいつでもだれでも気軽に 来て,今の生活をよりよくするために利用する場所です。気が向いたら友達と遊びに釆て下さい。 ‥‥‥君はあたたかい雰囲気の家庭で生活ができ幸せですね。……今後も楽しい学校生活を送って下 さい。成績も向上しているようです。がんばって 下さい。
<母親からの返事>
この度は,大変お世話になりました。ご理解のある先生方に恵まれお陰様で子供は毎日,以前より元気に通っています。……私は先生に,家のポ ロまであからさまにお話ができました。気のつかわないあたたかい先生にお会いできとてもうれし く思っています。心から家族共々感謝致しており ます。(後略)
7.考察
本人の現在の状況は服装や髪型の乱れもなくな り,授業中注意されるような態度もなくなった。 また,成績も向上してきており問題とみられる行動はない。家庭においても,家族の一員としての 自覚が高まり,父親と対等に話し合えるまで成長した。将来の目標も明確になり社会性も発達して きた。
本人の急激な成長は,家庭での対応のしかた, 特に父親の積極的なかかわりが効を奏したものと 思われる。また結果的に自転車窃盗は,一過性の問題行動と考えられるが,対症療法的な指導援助 ではなく,問題の核心にふれた対応がよい効果をもたらしたものと考えられる。
今後は,本人の自主的な来談を尊重したい。 なお,教育相談は問題行動についての対応と受 け取られている傾向が強いが,そのような受け取り方を是正し,本来の教育相談の趣旨を理解され るよう努力したい。