研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -050/066page
4.反社会的行動への教育相談的対処
A.多動の問題
1.多動とは
多動とは多動行動(hyperkinetic behavior)のこ とをいう。これは「発動性:精神的活動や運動を 起こすもととなる力」が,何らかの理由で「亢進 した状態」をさしており,興奮状態とは異質のも のと考えるのが妥当とされている。
教室でよく観察できる具体的な姿は,授業中よく手あそびをしている,椅子に腰かけても手足をばたばたしたりいたずらをする,席を離れて歩き回る,注意集中の時間が短い,注意されても抑制が長続きせずすぐに動き始める,などである。またこれらの子供はちょっとしたことで友達とトラブルを起こしやすく,注意されると大声を出したり泣きわめいたりする。その上カッとなって暴力的行動や爆発的で予想しにくい行動をとる。
子供は本来活発で活動的であるが,多動の子供は,そのような行動を一時的にではなく,日常的に示す。そして,学習に支障を来たし,対人関係を損ね,本人にはもちろん周囲にとっても多大な迷惑をこうむることになるのである。
指導にあたっては,注意する,諭す,叱るなど平常のかかわりでは改善がみられない場合,その多動の原因や背景をとらえて対処することが大切である。
2.多動の原因
多動の原因を一元的に考えることは適当でないと思われるが,大別すれば次の二つになろう。
(1)心理的要因による多動
次に示すいずれかにより,あるいはそれらのいくつかが複合されて情緒的に不安定な状態に陥り多動が発生する。
● 親の養育態度-厳格,過干渉,養育方針の矛盾や不一致,玩具や教材の与え過ぎ,など
● 家庭環境-夫婦や家族の仲が悪い,心配ことが多い,騒々しい,など
● 学校環境-教師が過度に厳格,教師を嫌う,友人との不仲,いじめられ,精神遅滞により集 団生活や学習内容に適応できない。など(2)身体的要因による多動
心理的要因のみでは説明できない多動の子供が 多く発見され,医学的研究が進み,脳の器質的, 機能的障害による多動の問題が注目されてきてい る。その多くは微細脳機能障害症候群(Minimal Brain Dysfunction syndrome:MBD)であ る。MBDの子供は周囲の無理解から多動につな がる心理的要因も併せもつ場合が多い。
3.MBD症候群の特赦と学習障害
(1)MBDの子供は知能が平均または平均以上で,主に次の特徴をもつ。
● 運動機能の異常―多動,不器用,ぎこちなさ,共同運動(coordination)の障害,など
● 注意認識力の異常―注意集中の時間が短い,興味の移動が激しい,など
● 衝動抑制障害―衝動的な行動,など
● 集団不適応―対人関係の不適応,など
● 学習障害―読字困雑,算数困難,など(2)MBDの研究が進むにつれて,知的水準や 運動感覚機能に粗大な障害がないのに学校で期待 される成績をあげられない子供がいることが知ら れてきた。これは特異な認知過程,学習過程の障 害によるものと思われる。MBDと多動,学習障 害の関係を下図に示す。