研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -056/071page

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 A男は、両親のかかわりが少ない上、何ら認められず、ほめられず、励まされることなく成長してきた。そのため、自分の行動に対していつも自信が持てなかった。加えて、否定的で、支配的な親の養育態度は、A男の無力感をいっそうつのらせる元となった。そのため、積極的に対人関係が持てない性格が形成されていった。また、家庭内でも孤独感を抱いていた。以上のことから、常に日常生活に不満足感を抱いていた。しかし、反面積極的に自分を表現したいという気持ちが内在していたと考えられる。自転車は、このようなA男の唯一の慰めであり、自転車に乗ることは、A男にとって現実の場から逃避し自分の世界に浸ることでもあった。

 このような状況に、時としてまとまった金が手に入ることが弾みとなり、A男の家出が行われたものと考えられる。

6.指導仮説

 指導にあたっては、A男の自己概念の変容(自己否定→自己肯定へ)をはかること、両親の養育態度の変容をはかることが主眼となる。そこで、

● 当教育相談部では

  1. 箱庭療法により、A男の内面性をとらえる。また、自由な感情の表現をさせる。
  2. カウンセリングにより、自己洞察を深めさせ、自己概念の変容をはかる。
  3. 主張訓練的アプローチにより、自分の意志を正しく相手に伝えることができるようにする。
  4. 両親へのカウンセリングを通して、A男に対する養育態度の変容をはかる。また、家族間の結びつきを強化する。

● 学校(特に学級担任)では
  1. 担任とのより強い信頼関係を形成する。
  2. 交友関係形成の援助をする。
  3. 学級内での作業を通し、認め励まして満足感を体験させる。
  4. 両親にA男の良さを伝え、A男を肯定的に受けとめてもらう。

7.指導援助の経過

 A男が2年生となった4月、学級担任と当教育相談部がA男の指導について協議し、互いに連携して指導を行うこととした。

(面接初期)
(1)箱庭療法による内面性の理解

 A男は、言語的表現に乏しかったので、面接初期には箱庭療法を多く用いて、内面性の理解につとめた。次の写真は、A男が作った箱庭のひとつである。

箱庭療法による内面性の理解

 何やら楽しく話し合う動物が何ケ所かに見られることから、楽しく話し合う友達が欲しいようにうかがえる。

(2)担任との信頼関係の形成

 担任は、毎日、A男にことばかけをすることをまず心がけた。その際、A男には話すことを強要せず、自然な流れの中で、会話の量が増えるようにした。A男は、担任の話にただうなずいていることが多かったが、当教育相談部での面接の際"担任の先生は好き" と話すようになった。

(面接中期)
(1)カウンセリングによる自己洞察の深化

 まず、相談員は次のような技法でA男の言語表現を多くする試みをした。

 相談員:1分間連続して話をする。
 A 男:1分間連続して話をする。

 これを交互にくり返す。A男が話をする時は、相談員は受容的に話に耳を傾ける。
 このことから、A男の言語表現は徐々に多くなっていった。

 A男:「……父も母も、僕のことダメだダメだ


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