研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -057/071page

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って言うんです。……」
 相談員:「自分でも100%そう思うわけ……。」
 A男:「100%……。ウーン、90%はそうかもしれないけど……‥。そんなにダメではないなあ……‥。」
 相談員:「あとの10%は違うって感じね。……」
 A男:「ハイ。僕は新聞配達だって毎日ちゃんとやっているし………‥。」

(2)担任による交友関係を深める援助

 担任は、級友数名に、A男にできるだけ話をするように、さりげなく頼んだ。この際、比較的A男の性格に似ている生徒を選ぶよう配慮した。

(3)両親に対する働きかけ

 相談員は、両親に対して、A男が家出をすることは、“もっとよくかかわって欲しい”というA男の心の訴えであることに気づかせ、A男に対して肯定的に見るよう求めた。

(例)A男は仕事がのろい
   →A男は仕事がていねいだ。

 また、担任は、家庭訪問などを通して、A男の学校での変容の様子を伝えた。さらに、A男が自転車に乗ることが好きということから、一緒にサイクリングに出かけることを勧めた。

(面接後期)
(1)主張訓練的アプローチ

 相談員は、面接の中で、テレビのチャンネルはいつも母が決め、A男はそれに対して一言も言えないということから、次のような主張訓練的アプローチを試みた。

 1. 相談員:A男の役、A男:母親の役で家庭での場面を再現する。
 2. 1をもとに、相談員がA男になり、母に対する説得のしかたのモデルを示す。
 3. 2の練習をA男自身が行う。
 4. 家で、実際に母親に話す。

 以上のことを基に、まず、日曜日にテレビのチャンネルについて母親と話し合うことをA男に指示した。その結果、母親の了解がさほどの抵抗もなく得られた。今まで、母親に対して直接に口答えをすることのできなかったA男にとって、このことは大きな自信となった。

(2)担任による満足感を育てる指導

 勉強に対しては相変わらず無気力なA男であったが、清掃作業についてはいやがらず黙々と取り組んでいた。担任は、A男と共に清掃に取り組みながら、地味な仕事を黙々とやるA男の態度をおおいにほめ励ました。

 このような指導を行っている過程においても、A男の家出は、2度3度と繰り返された。しかし担任と相談員の互いに連携した根気強い指導により、A男の生活態度や両親の養育態度にも徐々に変化が見られ、高校2年生の12月以降は、何事もなく生活してきている。

8.考   察

 この事例で特筆すべきことは、学級担任と当教育相談部の連携の良さである。2度、3度と繰り返されたA男の家出も、この連携を基盤とした根気強い指導により、ついには解決されるに至っている。その意味で、学校と相談機関の連携のあり方を示す良い事例と言える。

 連携は、単に連絡を取り合うことではない。対象の児童生徒の指導援助にあたり、お互いがその特性を生かし指導援助を行うこと、(例えば交友関係を深める援助を担任が行い、主張訓練的アプローチを相談員が行うといった)これが真の意味での連携であると考える。

 また、この事例では、言語表現に消極的なA男に対し、相談員が箱庭を用いたり、学級担任が声はかけるが、会話を強要しないで自然な流れの中で会話の量を増やしていくといった、A男の心情を大切にする受容的な接し方が行われた。A男のような言語表現を苦手とする児童生徒に対してはこのようなアプローチが特に重要ではないかと思われる。


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