研究紀要第76号 「情報活用能力の育成に関する研究 第1年次」 -109/137page
IV 研究の成果と今後の課題
1.研究の結果と考察
(1)評定尺度 I ・ II の設定
すでに述べたように,今年度は特に生徒の自己 評価によって評価するため,評価尺度II を小・中・ 高校用と別々に作成し,発達段階等の差に対応で きるよう文言の表現に工夫を重ねてきた。
評定尺度II の内容は,検証授業の事前・事 後調査やその他の部分的な試行結果からみて妥当 性を持つものであり,現段階では問題となる内容 は見当たらない。
しかし,次年度の検証授業の実施までに,評定 尺度I (教師)の結果と評定尺度II (生徒)の結 果とを比較し,相互の類似点や相違点を明確にす るなど,児童・生徒の多様な実態とその変容に対 応できるようにしたい。
(2)情報活用能力育成プロセス(実践モデル)の作成
情報活用能力が育成された状態像の構築を受け て作成したものが,P.101のモデル図であり,P.100 の目標分析全体と密接な関連を持ち,情報活用能 力育成のプロセスそのものを表す基本概念である。
授業を試行実践するにあたって図−8に示した ように具体化した。(今回は,中学校で授業を行 ったが,小学校用,高校用もそれぞれに具体化し ている。)
これは,学習過程が課題の発見から解決へと一サイクル進んだ後に,残された課題や新たな課題へと元の位置より高いレベルに到達する,いわばスパイラル式のプロセスにしたものである。
このプロセスに基づいて授業を行った結果から考えると,情報手段との関連を密接にした学習過程は,指導計画を作成するための重要な指標となり得るものである。
一方では,授業の単元(題材)や主題によっては,本時の目標との関連をみて各段階の途中のステップを変化させたり,重点化を図ったりすると,更に効果的になる場合のあることが分かった。今回の授業の学習指導案は,その一例である。
(3)検証授業の試行実践
授業による成果と問題点を次にまとめる。
《1》 パソコンの使用経験(約7%)の少ない生徒たちが,キーボードの操作などパソコンの使用に極めて好感を示し,授業の興味・関心も持続した。(評定尺度II の変容,感想文)
《2》 事前調査の結果をみて,事前にCAIソフト 等を利用して,キーボード操作法を指導してお くことは有効である。基礎調査の全体的傾向からも,今後はぜひ位置づけておきたい事前指導である。(授業中の観察,感想文)
《3》 授業の後で,各要素の学級平均値が向上している。特に「情報機器の操作」《12》が大きく向上し,小集団では下位グループほど変容が大きく事後の満足感も強い。(評定尺度II の変容,感想文)
また,問題点としては次の事項があげられる。
《1》 本時のために準備した資料の作成には,かなりの時間と労力を必要とする。
《2》 現時点では,各学校のパソコンの設置台数が少ないため,授業への機器導入の仕方を更に検 討する必要がある。
1時間だけの授業実践であったが,情報の収集 選択・処理や情報手段の基本的な操作能力の育成 について,次年度の研究の手がかりとなり得る有 益な資料の収集ができたと思われる。
2.今後の課題
今年度は,授業の試行実践を通して研究を進めてきたが,次年度は情報活用能力育成プロセスにそって具体的な手だてを吟味し,実態に基づく授業実践により目標を達成する。
更に,主体的な情報活用能力の育成を目指すためには,授業だけでなく多様な角度から実践し追究することが必要であろう。
また,児童・生徒に情報活用能力が育成される途中での評価方法を工夫し,個性や適性に応じた指導方法を追究していきたい。