研究紀要第77号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -119/137page
事例1
「いじめ」が予測される小学生への予防的な指導援助の事例
1.予測した問題行動 いじめ
2.対象 小学校5年(A子・B子)
3.問題行動予測の動機
・ A子は,友達が少なく,話ができず孤立して いる。髪や服装は汚れていて,無造作である。
・ B子を中心とするやや排他的なグループがク ラス内にある。
4.資料
A子,B子のそれぞれが気になり,本人,家族 関係,学級内の人間関係などを調べた。
(1)A子について
・成績−下位グループの一人。図工が得意である。
・性格−気が弱く,依存性が強い。少し親しく なると,つきまとうためうるさがられている。
・家族,及び家族関係 父親(41歳会社員),母親(38歳パート),姉 (中2),弟(小4)の5人家族。すぐ下に弟が 生まれたこともあり,特に母親はA子を「グズ」 ときめつけがちで,あまりかまわない。(2)B子について
・成績−上の下。基礎学力は高い。
・性格−勝ち気,見えっぱりで,わがままであ るが,涙もろい一面もある。
・家族,及び家族関係 父親(35歳)は離婚のため別居(調停中)。母 親(38歳)は同居している祖母と商店経営。B子 は一人っ子として甘く育てられた。(3)ソシオメトリック・テスト(4月下旬)
クラス替えをしたところであり,席替えや,5 月の運動会の班編成のためにも実施した。
・ A子−排斥数0 被排斥数4 選択数3 被 選択数0 孤立児である。A子は「犬が好きだ」 との理由でB子を選んでいるが,B子は「うそつ き」だからとA子を排斥している。この他,A子 はC,D子を「いじめない」として選択している。
・ B子−排斥・被排斥数2 選択数4 被選択 数5 互いに選択しあっている他の4人の児童と ともに下位集団の1つを形成している。B子を排 斥している2人の児童は,理由を「こわい」とし ている。5.予測診断(診断)
A子は,「グズ」ときめつけられ,家族の間で も無視・放任されて育ち,生活態度は幼く,学力 面も低い。一方,B子は,一人娘として甘やかさ れて育ったが,最近両親の不和から情緒の安定を 欠き,不満感から攻撃的になっている。A子は, 寂しさから,自分と性格の違うB子を求めまつわ りつこうとしているが,B子はA子にいらだち, 排斥している。新しいクラスになったばかりであ り,現時点で問題は起きていないが,適切な指導 援助がなされないならば,ふたりの間に「いじめ」 などの問題行動が起きることが予測される。
6.予防仮説(指導仮説)
担任が学級作りを通じて,指導していく。
(1)本人(A子・B子)に対して
《1》 A子に対しては,学習の個別指導を図り ながら,A子が選択しているC,D子と同じ班に 入れ,受容的な雰囲気のなかで自立心を育てる。
《2》 B子に対しては,心の中の不満感を吐き 出させながら情緒を安定させ,特定のグループに 偏らない温かな人間関係を作らせる。