研究紀要第77号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -120/137page
(2)家族に対して
《1》 両親のA子に対するかかわりを密接にさ せ,髪,服装など女の子らしい清潔なものにさせる。
《2》 B子の母親の話をよく聴き,安定させる。
(3) 学級で
みんなで,助け合い,支え合うクラス作りを 通して,A子,B子の人間的成長を図る。
7.予防援助(指導援助)の経過
[一緒に作業をし,ラボールを作る]
・ 運動会の準備をしながら,B子と話した。A子 を「うそつき」と思ったのは,B子に子犬をくれ る約束を破ったからと分かる。「うちにすてきな 犬がいるの。今度子犬が生まれたからあげる」と 言われてA子の家に行ったが,犬は雑種で,子犬 もいなかった。そこで「きっとA子はB子が好き なんだね」と言ったが,B子は不満げであった。
・ 運動会でA子は,「玉入れ」の準備係を熱心 にやっていた。通りかかった母親に「A子さんの おかげで助かる」と言うと,A子の顔が輝いた。
[B子の心を支えることと,学級指導〕
・ 5月初め,放課後の教室で,副委員長のY子 が一人で泣いていた。B子とそのグループが非協 力的でやりにくいという。また,みんなで陰にま わるとA子をばかにしていて,特にB子達がひど いのだという。B子の悪口を言わないようにしな がら,よく話を聴き,Y子をねぎらった。
夕方,B子の家に行き,母親と立ち話をした。 10日前正式に離婚したが,そのころからB子が荒 れているという。「学校ではどうなんでしょう」 「しっかり,とてもけなげにやっています。でも 今こそ,B子さんを支えることが必要ですね」
・帰りの会でゲームをするなど,クラスの雰囲気 を和らげながらB子の気持ちを引き立てた。また, 互いに認め合い助け合う大切さを全員に話した。
[頑張るA子と両親の変化]
・ 班別学習で,A子はC,D子らと漢字の書き 取りを頑張った。みちがえるほど書けるようにな り,自信がついてきた。「友だち」と題した絵は 校内絵画展でみごと入選した。そして,このころ から,両親のA子に対する態度が変わってきた。
[心を結びつけた学習発表会]
・10月末,学習発表会で,創作劇「白鳥と子供 たち」を上演することにした。傷ついた一羽の白 鳥が村の子供達の手当てで回復し,やがて北の空 に帰っていく物語である。
・ 白鳥にB子を,介抱する心優しい村娘の一人に A子をあて,練習が始まった。A子はこの役がと ても気に入り,家でも母親と練習した。
・発表会当日,ラストシーンでB子は白鳥の舞 を懸命に踊った。しかし,終わった後,教室での 反省会の間,B子は机につっぷして泣いていた。 B子はまもなくT市に引っ越すことになっていた。
[二人の成長]
・ 「お別れ会」で,クラスを代表してA子がお 別れの言葉を述べることになった。驚いたことに A子がこの大役を希望したのである。
「私はばかなので,B子さんには迷惑ばかりか けました。でも,私はB子さんが大好きです。今 度,子犬が生まれたら,きっときっと私の家に来 てください。きっとです」
「T市に行っても,みんなのこと,忘れません。 A子さんちのあの犬,本当にかわいくてうらやま しかった。でも………。さようなら」8.考察
本事例は,当初「いじめ」の被害者と加害者になることが予測された対照的な二人の児童に対し,未然に防ぐべくかかわった例である。
(1)二人のそれぞれの性格や気持ちに合わせて, 受容的で柔軟な指導を心がけた。
(2)常に学級全体を視野に入れて,支え合い, 心ふれあう集団の形成に努めた。その中で,二人 の人間的成長にその成果が認められる。
(3)家族に対しては,本人を機会あるごとに褒 め,安心させるかかわりを多くさせた。
(4)問題点の気づきや予防的な援助に,ソシオメトリック・テストを有効に活用できた。