研究紀要第89号 「事例に通した教育相談の進め方に関する研究 開発的な指導援助のあり方 第2年次」 -083/109page
I 研究の趣旨
小・中・高等学校の新学習指導要領の絶叫には「学校の教育活動を進めるにあたっては,自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の指導を徹底し,個性を生かす教育の充実に努めなければならない」と述べられている。このことから,個性を生かす教育が人格形成の基礎としてとらえることができよう。
学校における教育相談の在り方を考えると,すべての教師による,すべての児童生徒を対象にした個性を生かし,伸ばす望ましい人間形成のための援助活動を,教育活動のすべてにわたり意図的・計画的に進めることが大切である。
しかし,学校における援助活動の実際を見ると,どうしても一部の問題行動を持つ児童生徒への治療的なかかわりで終わってしまっているのが現状で,全児童生徒一人一人の個性を生かし,全人的な発達(自己実現)をめざす開発的な指導援助が,あまり計画的に進められていないのが実状である
いま,個性を生かし,伸ばす教育が重要視されている折,児童生徒の発達過程をふまえ,児童生徒の持っている可能性を認識させ,その能力を発揮できるように指導援助することが強く望まれるようになってきている。
本研究は,これらの現状をふまえ,児童生徒の将来の向上のために自己理解を深めるための指導援助をしながら,一人一人の個性を生かし,伸ばす「開発的な指導援助の在り方」を追究するものである。
平成3年度(第2年次)は,第1年次の研究で 明らかにした開発的な指導援助の基本的対応に基 づき,実践を通して開発的な指導援助の具体的な 内容と方法の在り方をさぐることにした。
II 研究の概要
1.開発的な指導援助のとらえ方の究明
(第1年次抜粋)
開発的な指導援助とは、人間的な触れ合いを基盤に「児童生徒が自己理解を図り,自ら向上を求め,将来の見通しを意識しながら自己実現に向かって自発的に進んで行くことができる」よう指導援助することである。
自己実現に向かって自発的に進んで行く児童生徒の姿とは,児童生徒自身が自分への理解の基に,将来への向上を目指して生活を送っている状態とした。
そのためには,児童生徒と指導援助者との望ましい人間関係と,指導援助者自身の教育に対する理解と熱意が不可欠なものとなる。
一方,児童生徒が自己実現に向かって自発的に進むためには,次の3つの要点がある程度満たされていることが必要である。
- 身体面が健康であること(健康)。
- 安心して家庭や学校生活が送ることができること(安全)。
- 家庭や学校が温かく受け入れてくれる環境であること(所属と愛情)。
これらがある程度満たされることにより,自己受容が可能になり,児童生徒は自分を見つめようとする意識が高まると考える。
このことを基盤にして次の段階が考えられる。
- 自己理解することができる(自己理解)。
- 自分の身体,性格,能力 社会的地位等の特徴を客観的に理解することが可能になる。
自己理解が深まると
- 自分への誇りと自信を持つことが可能になる(自尊)。