研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -089/117page

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I 研究の趣旨
 教育の第一義のねらいは,その子のもつ未知の力や素質を目覚めさせ発揮させること,そして精神身体の全幅の発達を促し伸ばすことにある。言いかえれば,教育とは,子どもたちの人間的成長・成熟を図る営みである。そしてまた,学校における教育相談も,子どもが一個人の人間として持つ成長への意欲を信頼し,その心に呼び掛け働き掛けその意欲の現実的な発動を期待するところに本質がある。教育におけるねらいも,学校における教育相談のねらいも,本質的に共通するものである。

 さて,これまでの教育相談は,どちらかと言えば,治療的・予防的な援助に重きを置く傾向があり,能動的・積極的な働き掛けに対してはやや不十分であったと考える。これからの学校における教育相談の課題は,「育てる教育相談」をどのように進めるかということにあると考える。
 現在は,不登校をはじめとする問題行動が見られる児童生徒が年々増加の傾向にあり,その対応に迫られる状況にある。こうした児童生徒たちには,教育相談を重ねていく中で心を開かせながら,自分自身のあるがままの姿に気づかせ自信をとりもどさせ,自らの力で生きていくことができるように援助していくことになる。このような援助は,治療的・予防的な援助であると共に本人自身に内在する可能性を引き出し,育てるという点で,開発的な指導援助であるとも言える。このような援助は,問題行動がある・なしにかかわらず,すべての児童生徒に必要であることは言うまでもない。

 今,個性を生かし育てる教育が重視されている折.児童生徒一人一人に,自らのよさや可能性に気づかせ,それを引き出し育て,自己実現を目指して意欲的に生きていくことができるようにする開発的な指導援助が特に必要であると考える。
 こうした現状をふまえ,本研究では平成2年度より「開発的な指導援助」を学校教育活動の全領域で実践的に試み,その指導援助の在り方について追究してきた。

II 主題についての考え方
1 開発的な指導援助とは
 一人一人の児童生徒の特性に応じ,それぞれが持っている様々な能力を発揮できるようにするために,気づかせたり,引き出したり,発見させたり,促したりする指導援助の仕方である。
 一人一人に即して開発を進めるためには,個々人に対しての十分な理解に基づく援助が必要である。そのためには,教師と児童生徒相互の心の開発こそが必要であることは言うまでもない。

2 開発的な指導援助の目的
(1) 目指す児童生徒の姿
 開発的な指導援助により,次のような児童生徒を育成する。
 児童生徒が自己理解を図り,自ら向上を求め,将来の見通しを意識しながら,自己実現に向かって自発的に進んで行くことができる

(2) 指導援助のための要点
 上記のような児童生徒を育むためには,指導援助のための次の6つの要点が必要であると考える。
1) 身体面が健康であること。(健康)
2) 安心して家庭や学校生活を送ることができること。(安全)
3) 家庭や学校が温かく受け入れてくれる環境であること。(所属と愛情)
4) 自分自身を客観的に理解することができること。(自己理解)
5) 自分への誇りと自信を持つことができること。(自尊)
6) 自分の個性や生き方について探究し,将来への志向性を持って生活することができること。(将来への向上)
 これら6つの指導援助の要点は相互に結びつきがあり,単一に機能するものではない。特に,1)〜3)の要点は,4)〜6)の指導援助のための基本的条件であると同時に,必要不可欠なものである。
 基本的条件が満たされる過程を経て,あるがままの自己を受け入れ 自分自身の気づきをもとに


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