研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -090/117page

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自己理解ができるようになる。そして,さらには自分がかけがえのない存在であることを自覚し,自信と責任のもとに行動できるようになると考える。
 これら1)〜6)の指導援助は,自己実現に向かって自発的に進むことができる児童生徒を育成するために必要不可欠なものである。

3 研究の見通し
 「児童生徒が自己理解を図り,自ら向上を求め将来の見通しを意識しながら自己実現へ向かって自発的に進んでいくことができる」ようにするためには,人間的な触れ合いを基盤とし,児童生徒が自ら望ましく成長するために必要不可欠な指導援助を,学校教育活動の全領域にわたって充足していくことが必要である。
 以下に「見通しについての考え方」を述べる。

(1) 自己理解を図るとは
 己れ自身の精神(知・情・意),身体,行動の現状を知ることができるようにするということである。そのためには,自分自身への気づきを図ることが必要になり,基本的条件(健康・安全・所属と愛情)が十分満たされることが不可欠である。
(2) 自ら向上を求め,将来への見通しを意識するとは自己理解が深まり,自分自身がかけがえのない存在であることが意識されると,自信を持って行動できるようになり自尊感情が育まれてくる。そして,今の自分よりもさらにより良く向上しようとし,将来への展望に立った実践が行われる。 しかし,「所属と愛情」が望ましくない状態であると,ゆがんだ自尊感情が育ち,傲慢になったり,独善的になったり,時には必要以上に卑下したりするようになる。自尊感情が望ましい方向に育まれないと,将来への見通しも向上心も育たない。
(3) 自己実現に向かうとは
 自分がやらなければならないこと(当為,義務,責任)を自覚し,それをやりとげようとする心の状態である。特に指導援助のための基本的条件の充足を基盤としその他の指導援助相互のかかわりを大切にした指導援助の積み重ねが重要になる。

(4) 人間的な触れ合いとは
 児童生徒のパーソナリティが建設的な方向へと進展するための必要にして十分なる条件は,教師と児童生徒相互の関係が望ましい状態にあることである。そのためには,教師の態度が次のようであることが望まれる。
1) 教師の態度が,教師の本当の姿と一致している。いわば,人間本来の生地の姿で児童生徒に接することである。(自己一致)
2) 児童生徒がそうせざるを得なかった必然性,や言い分をじっくりと心を傾けて聴き入り理解する。(共感的理解)
3) 児童生徒をかけがえのない絶対的存在者として受け止め,無条件で積極的にかかわり尊重する。
 決して見放さないという母性原理に基づくかかわりである。(無条件的積極的尊重)
 つまり,人間的な触れ合いとは,教師と児童生徒及び児童生徒相互が受容的に関係づけられている状態であり,指導援助の基盤におかなければならないものである。この状態が思わしくなければ,他の指導援助も成り立たない。

(5) 学校教育活動の全領域にわたるとは
 開発的な指導援助のために必要とされる6つの指導援助は,すべての児童生徒を対象とし,学校生活のすべての場面に即して行われるものである。
 教育課程に位置づけられたもの,及び教育課程以外の活動において,一人一人に即した指導援助を集団への指導援助とのかかわりの中で適切に行う。
 集団の中で個が生かされて意欲が高まることにより,集団の意欲も高揚する相互のかかわりに重点をおいた指導援助が必要である。


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