研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -116/117page

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っていくことがわかる。こうした傾向は実践例の中で数多くみられる。つまり,学級の中で,自分が認められ,安定した状況にあることが最も必要であり,大切な要件であると言える。

 これらの基本的条件を満たすためには,児童生徒に対して,次のような理解をする必要がある。

○ 児童生徒をプラスの面から見つめる。

○ 十分に時間をかけて理解するように努める。

○ 周囲からのイメージで人格が形成されることを自覚する。

2) 指導援助の各要点は相互にかかわり合い,単一に機能するものではない。

学級の変容(K高校)
図V−3 学級の変容(K高校)

 図V−3の結果からも言えるように,一つの指導援助の充実が他の指導援助の充実に関係していることがわかる。言い換えれば,ある要点に関しての指導援助が不十分であれば,他の指導援助も充実されないということである。例えば,望ましい自己理解がなされていなければ,望ましい自尊感情は育たない。傲慢になったり,不遜な態度になったりするのは,その一つの表れである。

(4)開発的な指導援助は,すべての児童生徒を対象とし,教育における指導援助の基盤である。

 一人一人の児童生徒は,それぞれに個性的であり,かけがえのない存在である。不幸にして問題行動がある生徒であっても,教師の受容を基盤とした適切な指導援助によって,本人自身が心を開き,自信を取り戻し意欲的になっていった多くの事例からも言えるように,開発的な指導援助はすべての児童生徒に必要であり,教育における指導援助の基盤であることが,これまでの教育実践により,いっそう明らかにされた。

2 今後の課題

 3年間にわたって実践的に進めてきた「開発的な指導援助の在り方に関する研究」も本年度で一応終了する。今後は,これまで述べてきた成果をふまえ,全校的視野にたってこの指導援助を継続し深めていくことが必要である。また,開発的な指導援助は,児童生徒に対する教師の有り様が深くかかわっていることを自覚し,児童生徒の「よさ」や「可能性」に気づくことができるように,教師自身の感性を豊かにすることに心を砕かなければならないであろう。

 子どもの心の波長に心を添わせ,よりよく生きようとする力を引き出し育てていくこと,それが我々教師の役割であることを忘れてはならない。

〈研究協力校および研究協力者委員〉
二本松市立二本松南小学校(教諭 渡辺浩人)
福島市立信陵中学校(教諭 小柴治紀・教諭 三浦孝一)
本宮町立本宮第一中学校(教諭 安斎次弥)
福島県立川俣高等学校(教諭 佐藤勝弘)
福島市立蓬莱東小学校(教諭 本間貞二)
福島県立福島工業高等学校(教諭 武藤次雄)

〈研究プロジェクトメンバー〉
  根本文弘   荒 晶子   水谷由克   伊勢英子   後藤ヨネ   國分敏昭
  渡邉和夫   金谷 哲   高野成一   飯島裕人 朽木耕作 斎藤洋一
八島喜一 鈴木喜三郎 遠藤美代子 阿部貞夫 佐久間益郎 畠腹桂子
赤塚公生 玉川邦夫 ・印は前任 者)          

〈参考文献〉
 「完全なる人間」 アブラハム・マズロー著  誠信書房
 「学校相談心理学」 神保信一・中西信男・富本佳郎・橋口英俊共著  金子書房
 「教育評価法総説」 橋本垂治著 金子書房
 「心理テスト法入門」 伊藤隆二・松原達哉共著  日本文化科学社


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