研究紀要第93号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第3年次」 -115/117page
V 研究のまとめ
1 研究の成果
本研究では,「児童生徒が自己理解を図り,自ら向上を求め,将来の見通しを意識しながら,自己実現に向かって自発的に進んでいくことができる」ようにするための開発的な指導援助の在り方について,下記のような「研究の見通し」に基づき3年間にわたって実践的に研究を進めてきた。
自己実現に向かって自発的に進んでいく児童生徒を育成するためには,人間的な触れ合いを基盤とし,自ら望ましく成長するために必要不可欠な指導援助を学校教育の全領域にわたって充実させていく必要がある。 その結果について以下のようにまとめることができる。
(1) 開発的な指導援助の基盤は,教師と児童生徒及び児童生徒相互の望ましい人間関係である。
実践例にみられるように,教師からの温かい言葉かけや励まし,そして互いに支え合う級友からの相互受容などが,児童生徒の自信を回復させ,意欲をかりたてた。
このことから,教師の対応として次の事柄が特に重要であることがわかる。
○ 一人一人は,それぞれにかけがえのない存在であるととらえる。
○ 一人一人の気持ちや感じ方を大切にし生かすことに努める。
○ そうせざるを得なかった気持ちを受け止め共感する。
○ 児童生徒と共に喜び,悩み,苦しみ,考え合う。
このような教師の対応が,教師と児童生徒,及び児童生徒相互の受容を育み,望ましい人間関係を醸成すると言える。
(2) 開発的な指導援助は,学校教育の全領域にわたって充実させることが必要である。
一人一人の「よさ」や「可能性」は,授業を中心とする学校教育の全領域にわたって引き出し,育てていくものである。実践例に見られるように児童生徒が係活動や部活動等で活躍し,それを教師や友達が認め賞賛したことがきっかけとなり,本人自身の学習への取り組みが意欲的になっていったことからも,全領域にわたっての指導援助が必要であることがわかるが,次のような教師の構えが重要であると言える。
○ 一人一人の持ち味を十分発揮させるための手立てを工夫する。
○ 「よさ」や「可能性」を一人一人の個性に即してとらえる。
(3) 6つの要点に基づく指導援助は,開発的な指導援助のために必要不可欠なものである。
開発的な指導援助のためには「健康」「安全」「所属と愛情」「自己理解」「自尊」「将来への向上」を指導援助のための要点としてとらえ,その要点に基づく指導援助を行った結果,次のような事柄がより明確にされた。
1) 「健康」「安全」「所属と愛情」に関しての指導援助は,他の指導援助のための基本的条件である。
図V−1 M男の変容(N小学校)
図V−2 A子の変容(N小学校)図V−1や2からも言えるように「健康」「安 全」「所属と愛情」の指導援助が充実していくと「自尊感情」や「将来への向上への意欲」も高ま