研究紀要第96号 「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」 -089/162page
自分に対する気づきを深め、自己表現できるよう援助するためには、グルーブエンカウンターやロールプレイングなどを取り入れ、環境と個の構成に向けた援助をおこなうことで、集団に適応する力を育て生徒のよさや可能性を発揮させていくことが必要である。
3. 学校生活に多様な価値を見いだす指導援助をすすめる
6つの心理社会的価値観に関しては、学年及び男女の差によって価値観の違いがみられることは、「生徒が持っている価値観に関して」で前述したが、一般に、学校生活に適応している状態にあると思われる生徒は、多様な価値観を持ち学校生活に適応している様子がみられる。しかし、学校不適応状態を示す割合が大きいA群の生徒は、価値観が全体的に平均を下回っている。
そして、「学級の人からよく思われようと無理して行動していることがありますか」の質問では、集団の場では思ったように行動できないと回答しているように、対人交流や対人交流と結び付きのある校内活動においてはさらに価値観を見いだしていないことがわかる。そこで、もっと柔軟的な考え方を育むためには、
教師自身の多様な価値観に基づき、生徒一人一人の個性やよさを認識し、それらが発揮されるような活動の場を重視する。
そして、生徒同士が友人の個性やよさを相互受容する姿を育み、多様な活動の中で、生徒の対人交流を活発にし、学級の所属感を高めながら各自の個性の伸長を図っていく必要がある。
4. 生徒一人一人の内面を理解する指導援助をすすめる。
調査対象生徒の約69%に無気カの傾向がみられる。一方、学校不適応の場面での解決方法を問う質問肢では、適応状態にある生徒は無論のこと、 不適応状態を示す割合が大きいA群の生徒も「自分で解決したい」という欲求は高い。A群の生徒は不適応状態の中で、内面では、自ら解決しようと望んでいるにもかかわらずうまく解決できないために悩み、それが無気力傾向となって現れているものと思われる。
さらに、「先生から注意されることがありますか」では「はい」「時々」を合わせてA群の生徒の約90%が先生から注意されることが多いと答えており、教師のかかわりに対して、A群の生徒ほど拒否的に受けとめていると思われる。また、学校不適応場面での解決方法では、教師に援助を求める生徒は少ないが、その中でも他の群に比べてA群の生徒には、自分だけでは解決できず教師に援助を求めている生徒が多くみられる。
以上のことから、生徒の表面だけに目を向けるのではなく、自分で解決したいという気持ちを尊重しながら、内面を深く理解して指導援助をする必要がある。そこで、
学級担任は、日常生活の中で生徒の話に耳を傾け、生徒との信頼関係づくりに努める。それを基盤として個別面談の機会を設け、生徒自身の悩みを教師自らのものとして共感的に受けとめ、個に応じた援助を行うことが重要である。
2 今後の課題
今年度の研究は第1年次として、現実に学校不適応状態としての問題を抱えた生徒及びそうでない生徒にも起こりうる学校不適応の背景にあるさまざまな要因の本質を調査・分析したものである。
次年度は、今年度の内容を受けて援助の在り方を実証研究するために、さらに生徒の内面に目を向け、
1.指導援助の試案の模索
2.研究協力校での実践
をすすめていきたい。
<研究プロジェクトメンバー>
荒 晶子 小島 長三 水谷 由克 佐藤 善則 國分 敏昭 佐藤 米子 渡邊 和夫 金谷 哲 飯島 裕人 深谷 和子 高野 成一<参考文献>
「教育研究のための調査票の設計と事例」 藤原藤祐著 ぎょうせい
「教室からみた不登校」 森田洋司・松浦善満編著 東洋館出版社
「適応と欲求」 戸川行男著 金子書房
「研究紀要第256」干葉県総合教育センター