研究紀要第100号 「国際理解教育におけるソシオドラマの活用」 -079/156page
国際理解教育におけるソシオドラマの活用
研究の概要
福島県の公立学校における国際化は,近年,外国人登録者数の急激な増加と公立小・中学校での外国籍児童生徒数の増加,中国帰国子女・海外勤務経験者帰国子女などによって急速に進んでいる。その一方,学校や教師のとまどいも大きく,対応に苦慮することも少なくない。このような課題に応えるため,平成6年度に新設した「国際理解教育講座」において,「ソシオドラマ」を演習に活用することによって,問題の本質や心理的事実に対する感受性と洞察力を養い,異なった文化や価値観に対する理解を深めようと考えた。
小・中・高等学校教師35名が,サイコドラマの風景構成法によるウォームアップやジェスチュアゲームを経て,ブラジルからの転入生がクラスに初めて入る場面の「今日から日本の学校で」,外国留学生として福島の中学校生活を体験する「無言清掃」,高校の「芋煮万博」などの「ソシオドラマ」を体験した。その結果,95%の教師が,「国際理解に関する良いヒントを得られた」と評価し,80%が「自分もやってみたい」と答え,演習全体としては,4段階評価のうち評価4が66%,評価3が31%,評価2が3%という結果が得られた。
1 はじめに
ソシオドラマ(社会劇)は,モレノ 1) に始まるサイコドラマの一部である。サイコドラマは集団精神療法の一つとして分裂病治療や社会福祉などの分野で成果をあげてきた。それは,サイコドラマが,自己自身への気づきや,劇を演じることで生ずる他者の心の動きに対する理解,或いはカタルシス(浄化作用)などにおいて優れた働きを持つからであろう。
本来のサイコドラマが個人の心の中のさまざまな問題を扱うのに対して,ソシオドラマは,社会的な問題や役割を主として扱う。例えば,「偏見」「人種問題」「人権」「学校文化」などといった社会的なテーマは,治療的な色彩の強いサイコドラマよりも,ソシオドラマの方が適していると考えられる 2) 。
本センターでは,今年度より「国際理解教育講座」を新設したが,国際理解教育を進めていく上で教師の資質向上を図るためにソシオドラマを活用し,学校の国際化によって起こり得るさまざまな問題への対応力を高めようと考えた。本県においても,外国人登録者数の急激な増加に伴う公立小・中学校での外国籍児童生徒の増加,中国帰国子女・海外勤務経験者子女の増加など学校の国際化現象は著しく進展しつつある。その一方,学校や教師のとまどいも大きく,クラスに適応させることや初歩的な日本語教育をはじめ,宗教や文化の問題を胎む給食指導,「極めて日本的」としばしば指摘される集団訓練,ともすれば男女一緒に教室でさせがちな一斉着替え,或いは一斉清掃など指導の難しさに悩む教師も少なくない。
このような問題に対しては,ソシオドラマのような体験学習を通して,行動しながらふりかえり,問題の本質を見つめていくことが有効であることは言うまでもない。
ここに紹介する事例は,ロールプレイング 3) について若干の知識と経験を有するが,サイコドラマ,ソシオドラマについては初体験という受講生に対して,約5時間に渡って行なった国際理解をテーマとするソシオドラマの実践例である。