研究紀要第99号 「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」 -049/156page
学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究
−第2年次−
研究の概要
本研究は,平成5年度から「学校不適応児童生徒への援助の在り方に関する研究」を主題にした3年計画のプロジェクト研究である。第1年次は,中学生(2072名)を対象に学校不適応に関するさまざまな要因を調査し,その結果を分析し成果として提言した。
第2年次研究の本年度は,第1年次の研究成果である四っの望ましい援助の方向性を受けて,学校適応に対する適切な援助の在り方を具体的な援助試案として作成し,実践研究するものである。
1) 試案−1(教師と生徒との人間関係を深める指導援助)
学級の基盤となる教師と生徒との望ましい人間関係の醸成に焦点を当て,教師から生徒への声かけを中心にした援助試案である。
2) 試案−2(生徒同士の人間関係を深める指導援助)
集団の中で自己表出が促進されるとともに,学校生活に多様な価値を見い出せるような体験的な場や機会を作る「グループ・エンカウンタ−」の手法を用いた援助試案である。
3) 試案−3(社会生活技能を高める指導援助)
社会生活技能の向上を図るSST(Social skills Training)の手順を参考にして, 「あいさつ」を取り上げて対人交流の活発化を図り,集団への適応力を育てる援助試案である。
本研究は,実践を通して三つの試案の学校不適応意識や状態への有効性,集団への適応力の変容などについて検証し,今後の効果的な援助の在り方を追究したものである。
I 研究の趣旨
今日,児童生徒の不登校をはじめとする「学校不適応」の問題は,大きな社会問題となっており,その問題の解決が緊急の課題となっている。
「学校不適応」の大きな背景としては児童生徒を取り巻く環境である学校や家庭を見逃すことはできない。例えば,要因の多くが学校にあるとも指摘されているとおり,学校生活では児童生徒がいじめに苦しんだり,教師との人間関係に苦しんだり,学業不振などから学習への興味や関心を失ったり,学校の指導方針や校則になじめなかったりする場合がある。また,児童生徒の人格形成に最も強い影響を持つ家庭にあっては,基本的な生活習慣のしつけなど家庭ですべきことが十分とはいわれない状況にもある。その上,児童生徒を取り巻く家庭や地域社会の教育力は弱まり,幼少期からのたくましく健やかに成長するための基盤が弱くなっている。
このように,「学校不適応」の問題は,さまざまな要因が複雑に絡み合っていると言える。現に,児童生徒の人間関係のつながりや集団へのかかわり方には大きな変化が現れている。こうしたことは,児童生徒自身のものの考え方や意識の変化と無縁なものではなく,これもまた,一っの要因となっていることを示すものと考えられる。
以上のような考えられるさまざまな要因があって現象化した問題とはいえ,現在「学校不適応」の問題は多くの児童生徒を巻き込み,一般化し,だれもが不適応状態に陥っても不思議ではない状況にある。
したがって,本研究では,問題を抱えた一部の限られた児童生徒も,また,そうでない児童生徒にも共通して起こりうる「学校不適応」の背景にあるさまざまな要因の本質を調査・分析によってとらえ,適切な援助の在り方について実証的に研究するものである。