平成7年度 研究紀要 Vol.25 個人研究7 -158/170page
2 ムーブメント教育とMSTB
(1) ムーブメント教育の考え方
従来の伝統的な体育は,ややもすると運動技能の習得が中心になりがちであったが,その反省にたって近年,「楽しい体育」・「やさしい体育」が注目を集めるようになってきた。
アメリカのフロスティッグ博士が提唱した「ムーブメント教育」 註1 とは,このような「楽しい体育」に近い考え方に立つ教育法である。小林芳文氏により翻訳・紹介されたこの教育法は,遊び的な要素を取り入れ,楽しく運動を行わせたり,子どもの自主性を重んじたりするものである。この教育法では,運動機能・感覚作りを,従来行われてきたマット・跳び箱・鉄棒という固定したものに限らず,遊び的な要素を十分に取り入れながら「動くことを学ぶ」及び「動きを通して学ぶ」ことにより,基本的な運動能力を高めることをねらいとする。この方法はアメリカやイギリスなど多くの国で取り入れられている方法でもある。
(2) ムーブメント教育における運動属性
ムーブメント教育は,いろいろな動きを身につけ,慣れることによって,身体を動かす楽しさが分かり,結果として,全体的な運動技能の向上につながる,運動属性の高揚を図ることを中心的な目標とするものである。
科学的な研究の多くは,運動属性として次の7つの領域をあげている。
1.協応性…別々の能力を一つの複雑な課題に統合する能力。いくつかの筋群を同時的,協同的に使いこなすこと。(2.以降の力やリズム等を含む)
2.敏捷性…刺激の変化に伴って,すばやくムーブメントパターンを変化させる能力,すなわち,身体運動における迅速な反応能力のこと。
3.筋力…特別なムーブメントで,ある特定の筋肉群を働かせる力の総量のこと。
4.柔軟性…関節の動きの範囲,すなわち,身体のある部分をその他の部分と関連させて,容易に動かす能力のこと。
5.スピード…いかに速く特定のムーブメントを遂行できるか,すなわち,二連の運動が行われる速さのこと。
6.平衡性…床面にふれる部分をできるだけ少なくして,姿勢を維持すること。
7.持久力…長時間にわたって力を働かせる特定の筋肉群の能力,酸素を送り込む心臓や肺の能力のこと。
(3) MSTBの内容及び実施方法
この理論を受けて,カリフォルニア州立大学のオーペット博士が小学校年齢の子どもの運動能力(ムーブメント・スキル)についての評価テストとして作成したものが「ムーブメントスキルテストバッテリー」(MSTB) 註2 である。
1.座位/前屈/リーチ
目的: 座った状態でどれだけ背骨が前に曲がるかの柔軟性を測定する。 準備: 1メートルの物差し 方法: ア 足を伸ばし,両かかとを15センチ位離して,床に座る。
イ 物差しは子どものかかとのところに30センチの目盛りがくるようにし,0センチの目盛りのついた方が子どもの体の方に向くようにする。
ウ 膝をまっすぐに伸ばし,上体を前に曲げ,手の指先が足の間でできるだけ床の遠くに届くようにする。
註1 小林芳文・是枝喜代治「ムーブメント教育プログラム」,1993,大修館書店
註2 小林芳文「ムーブメントスキルテストバッテリー手引き」,1989,日本文化科学社