平成7年度 研究紀要 Vol.25 個人研究7 -157/170page
体育科における個に応じた学習指導の工夫
一MSTBとムーブメント教育を通した低学年における運動能力の育成一長期研究員 渡 辺 裕
研究の要旨
本研究は,児童の体育学習への意欲的な取り組みを促すなかで,児童一人一人の実態に応じて運動能力を向上させるにはどのような指導方法があるのかを,文献研究や検証授業を通して明らかにすることをねらい,平成5年度の高学年での事例,平成6年度の教師の意識調査での研究結果を踏まえ,低学年において実践を行ったものである。
運動能力の実態を捉えるための方法として,ムーブメントスキルテストバッテリー(MSTB)を活用し,発達段階に応じて一人一人が苦手とする運動属性を探った。運動能力の育成に当たっては,ムーブメント教育を行い,児童の実態に応じて遊び的な要素を学習内容に取り入れた。その結果,次のようなことが明らかになった。
1.児童の運動能力面と運動への願いの両面から実態を把握し,一人一人に含った多様な学習活動を展開した結果,運動に主体的に取り組み,達成感を味わわせることができた。
2.低学年においては,目的的な遊びを取り入れることによって,学習意欲を高め,次第に運動が好きになっていく中で,運動能力の向上を図ることができた。
3.1種目当たり5分間という短時間でも,意図的・計画的に扱うことで運動能力の向上が図れる。
I 研究の趣旨
新しい学力観に立つ学習指導が進められる中で,体育科においては,情意面に比重を置いた「楽しい体育」が主流になりつつある。しかし,一方では,児童の運動能力が年々低下傾向にあるという事実があり,楽しい学習を追求する過程において,運動能力の育成が難しくなってきていると言える。
そこで,意欲的に取り組む「楽しい体育」のよさを生かしながら,一人一人に合った運動能力の育成を図っていきたい。児童の実態をとらえ,能力に応じて多様な学習活動を展開するならば,児童の運動能力を高められると考え,上記の主題を設定した。
本研究では,スポーツテストの結果をもとに,意欲的な取り組みを促しながら,一人一人の実態に応じて運動能力を育成していく方法について,具体的に実践を通して明らかにしていくことをねらいとしている。
II 研究の内容・方法
平成5年度は,高学年における運動能力の高め方に視点を当てて,体操領域の授業の在り方について実践をもとに明らかにし,6年度は,運動能力・体力と体育の授業に対する教師の意識との関わりについて調査研究を進めてきた。この結果を踏まえ,今年度は,低学年における運動能力の高め方について,福島大学教育学部附属小学校2年4組(児童数34名)の学級で実践を行う。
1 研究の内容
(1) 運動能力の実態把握の仕方である,ムーブメントスキルテストバッテリー(MSTB)を活用しながら,運動能力の傾向を把握し,個に応じた運動能力の育成の仕方を明らかにする。
(2) 「楽しい体育」でありながら,運動能力の育成を図ることができる授業の在り方について,ムーブメント教育の実践を通して明らかにする。