平成9年度 研究紀要 Vol.27 個人研究 -133/166page
高校生における画面の構成感覚について
長期研究員 今 泉 勝 行
研究の要旨
構成感覚とは,画面の中に描かれるものの配置や秩序に関わり,全体のバランスをとったり,画面に緊張感やリズムカルな動きを与えたりする感覚のことである。これは年齢とともに変化発達していく。また,構成感覚は,画面の骨格を作り,様々な展開に影響を与える要素である。
この研究では,高校1年生を対象として構成感覚についての調査分析を行い,主に絵画制作における構成のメカニズムを探る。ここで行った調査の目的は次の2つである。
調査l 描画傾向と構成感覚の相関関係
調査2 ワークシートの演習が構成への気付きや好みに与える影響
調査の結果,描画傾向と構成感覚にはある程度の相関が認められた。これは写実的描画に必要とされる合理性が,画面のバランスやリズムの感覚に影響するであろうという,筆者の予想に合致するものであった。また,ワークシートによる演習はいくつかの調査項目についてその影響が認められ,その結果,導入の重要性を再認識することとなった。
ここで得られた結果を,生徒たちの,より柔軟で自由な表現のために,また多様な価値観による鑑賞のために生かしていきたい。
I 研究の趣旨
1 構成感覚について
造形表現は,体性感覚と個々の体験に根ざしている。例えば立体感や質感・重さなどの表現には,そのものに直に触れ,持つことによってどんな感触なのか,どのくらいの重さがあるかなどを自分の体を通して実感することが重要になってくる。また距離感や遠近感についても,実際に高い山に登ったり長い距離を歩いた経験や疲労感等を伴って,その表現がリアリティーを帯びてくる。遠い広がりを描いた風景画からさわやかな開放感を味わい,美しい花の絵に感動を覚えるのは,見る人と作者とのそうした共通の体験がベースになっている。
構成感覚は,画面上でのシンメトリー(点・線対称),リズム,バランス等を作り出し,画面に秩序を与える。それは例えば,静物画を描く際,どのように瓶や果物を配置し組み立てていくかをコントロ―ルする。これらは―見,感動や驚きなどとは無縁で無機的なものに思われるが,実は生命の成長過程そのものに根ざしている。上越教育大学名誉教授の大橋浩也氏は次のように述べている。
シンメトリーとか,リズムとか,バランスとかいった感覚は極めて根源的なもので,動物であるならば,どんな動物でもfきっている感覚なのであろう。人間も生後1年,―人立ちして歩くようになるころから,体を2本足で支え,2本の手でバランスを取りながら,様々な行動を獲得していく。・・・・・体でうまくリズムが取れるかどうかは,画面上でリズム感のある構成ができるかどうかにもかかわっている。
造形における構成感覚は,絵画やデザイン・立体表現での様々な体験を通して年齢とともに変化し発達していく。本人の造形活動の全過程での気付き,行為,振り返りによって個々に感覚が形成されていく。画面における構成は,それが骨格に相当するが故に完成された作品から読み取るのは難しい。