研究紀要第117号 「学力向上のための授業改善に関する調査・実践研修 第3年次」 -050/117page
合は以下のとおりであった。
(a) 91.6%(58.6%) (b) 87.5%(72.4%) (C) 95.9%(62.7%) ※ 太字は創作活動実施クラス,カッコ内は未実施クラス さらに,気付いた点や感じたことについて記述した内容を見ると,創作活動を行っていないクラスの生徒のはとんどが曲名からの連想や,漠然とした印象を書くのにとどまっているのに対し,創作活動を行ったクラスの生徒からは,音楽の要素や構造の面からもアプローチしようとする姿勢が感じられる。そのような記述から,いくつか例を紹介したい。
ピアノの低音が一定のテンポでなっていて,悲しい感じを深めているように思う。(中略)最後にいきなり音が大きくなった時,このゆっくり悲しげな感じから発展していくのかと思ったら終わってしまって残念です。 (a)についての感想より この感想からは,ピアノが象徴している手回しオルガンのドローンの音に生徒が気が付いて,またその表わす意味をも感じ取っていることが分かる。また,最後の部分で,曲が発展せずに終わったことへの不満があるが,これは単に曲を聞き流すのではなく,その進行先への予想と期待がある点がとてもすばらしいと思う。この生徒は,この曲で歌われている内容を知った時に,シューべルトがなぜこのような形で曲を閉じてしまったかを理解することができるであろう。
突然音が変わったりして,曲的にはつながっているが音的にはつながっていなかった。途中で音がとぎれたりした。 (c)についての感想より この感想は,正にこの楽曲の本質を言い当てていると思う。作曲家のオリヴィエ・メシアンはこの楽曲で,3つの象徴的な音楽を並べた。その音楽をつなぐのは「間」の存在である。この生徒が書いたように,それぞれの全く違った音楽が,オプジェのように立ち並んでいる。この曲には明確なメロディも親しみやすいハーモニーもない。しかし,その表現手段を中心に聴くことによって,その楽曲への関心を高めることができるのではないかと感じた。
7 研究の成果と今後の課題
(1) 研究の成果
今回の研究によって,以下の成果を得ることができた。
○ 創作活動を行うことによって,音楽を形づくる要素や音楽の構造に関心を持つことができ,楽曲を多様な角度から鑑賞できるようになる傾向が見られた。
○ 自分たちの作品と鑑賞教材の間に共通のアイディアを見だすことにより,鑑賞作品をより身近に感じることができ,意欲を持って鑑賞活動を行うようになった。
(2) 今後の課題
○ 生徒の創作活動と結びつく鑑賞教材を準備するために,教材研究や資料の収集をさらに進める必要がある。
○ 創作活動を円滑にするためのグループ編成や導入方法をさらに検討する必要がある。
○ 音楽構造の理解を,創作や鑑賞だけでなく,歌唱や器楽との関連も図りながら,指導計画全体の中にどのように位置付けていくかについては,今後さらに検討する必要がある。
最後に,本研究の推進にあたり,検証授業等において多大なるご協力をいただいた福島県立須賀川桐陽高等学校の遠藤算彦校長先生,検証授業を実施していただいた同校音楽担当の中山郁子先生に厚く感謝申し上げ,研究のまとめとしたい。
<参考文献>
1)坪能由紀子:「音楽づくりのアイディア」 音楽之友社(1995年) 2)ジョン・べインター,ピーター・アストン:「音楽の語るもの」 音楽之友社(1982年) 3)ジョン・べインター:「音楽をつくる可能性」 音楽之友社(1994年) 4)シリーズ音楽と教育1「音楽科は何をめざしてきたか」 音楽之友社(1996年) 5)シリーズ音楽と教育2「音楽の発見『ミューズ的表現』」 音楽之友杜(1997年)