研究紀要第118号 「基礎学力向上のための授業改善に関する実践的研究」 -063/117page
実践4
高等学校理科物理IB
1 単元・対象・期間 ○ 単元「エネルギー」 ○ 対象 2年 男子25名 女子13名 計38名 ○ 期間 平成l0年10月〜平成10年12月 2 観察・実験の工夫・改善
(1) 思考活動を活発にする工夫
この単元は,仕事,位置エネルギー,運動エネルギー,力学的エネルギー保存則を扱う。熱を含め自然のエネルギー形態は多種多様であり,個々のエネルギーは理解できても,総合的にエネルギーを考えることは生徒にとって難しい。
そこで,生徒の興味・関心の高い身近な現象や先端的な技術の中から,エネルギー変換の観察・実験を選択して,一つの「実験群」を構成した。また,それらの実験をワークシートを使って総合的な関連付けを行えば,生徒の思考活動が活発になり,エネルギーのイメージを膨らませることができると考えた。
(2) 「実験群」・ワークシートの工夫
1. 「実験群」の工夫
エネルギー形態としては,身近に観察できる熱,光などを主に選んだ。実験は,生徒の実態に応じて,直観的にエネルギー変換過程がわかるものから数段階の変換過程を合むものまで幅広く選び,「実験群」を次のような構成とした。
図1「実験群」の構成 実験項目 エネルギー変換過程 a 水蒸気で動くやかんのふたの観察 熱→力学 b 手回し発電機を用いた実験 力学→電気 c オシロスコープによる音の観察 音→電気 d 光電池でプロペラを回す実験 光→電気→力学 e レーザーを用いた光通信の実験 音→光→電気→音 f 市販のラジオメーターの観察 光→熱→力学 g 自作のラジオメーターの観察 ○ 水蒸気で動くやかんのふた
日常的な事象であり,熱から力学的エネルギーに変換したことが捉えられる。
○ レーザーを用いた光通信装置
生徒の興味・関心が高い先端的技術の光通信装置はレーザーポインタ等を用いて製作した。通信経路をたどることでエネルギー変換の流れが捉えられる。
○ 自作ラジオメーター
黒,緑,白の3色の吸熱体を用いた実験を比較することで,熱から力学的エネルギーに変換したことが捉えられる。
2. ワークシートの工夫
生徒の思考活動を活発にするために,次のような工夫をした。
○ エネルギー変換過程が比較できるようにした。
○ 「実験群」の個々の実験を通して得られたイメージを総合的に関連付けて考えることができる応用例を加えた。
図2 使用したワークシート(一部) [2]実験4.は,手回しの機械です。4台ありますので,交代して自分で確めなさい。 1. 何も接続しないで,手応えを確かめなさい。 2. 豆電球を1個つないで灯しなさい。手応えはどうか。 速く回すとどうなったか。 手応えは( )理由( ) 速く回すと豆電球は( ) 手応えは( )理由( ) 3. 豆電球を10個つないだものを2.と同じ明るさにすることに挑戦しなさい。 4. 豆電球を灯す以外に,この機械を用いてできることを2つ以上上げなさい。 3 授業の実践
(1) エネルギー変換の日常的な事象として,水蒸気でやかんのふたが動く現象を観察した。
(2) 班単位で「実験群」の観察・実験を行い,その都度,結果をワークシートに記入した。
(3) ワークシートにより,各実験を比較したり,応用例を考えたりすることで,エネルギーのイメージを膨らませた。
4 結果と考察
(1) 思考活動の変容
図3 は,調査2.「思考活動の程度」の事前と事後の変容を,クラスの平均値で,各項目ごとに表したものである。