研究紀要第123号 「学力向上のための授業改善に関する調査・実践研究」 -030/076page

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美術教育の枠組み
美術教育の枠組み

(2)美術教育における表現の多様化

 前述の通り,改訂された中学校の学習指導要領では図,イラストレーション,漫画,写真,ビデオ,コンピュータ等,新たな表現手法やメディアの活用が具体的に示された。実際には,昨今の授業においては,さほど目新しいものではなく,実践例もよく見受けられるが,今回の改訂はそれらも含めて表現の多様化を―層推し進める形となるであろう。
 この流れは高等学校芸術科美術でも同様であり,中でも写真,ビデオ,コンピュータ等は,「映像メディア表現」の分野における中心的メディアとしてその活用が期待されている。

(3)美術教育におけるコンピュータの活用

 特にコンピュータについては,情報化社会への対応として,新学習指導要領のいたるところでその積極的活用がうたわれており,美術教育においても,新たなる造形表現の可能性を秘めた革新的メディアとしてかねてから注目され,授業に取り入れる学校も徐々にではあるが確実に増加している。
 ある面で描画技術というハードルをも越えうるコンピュータの導入は,その操作やソフトウェアの習得といった技能面のみの教育にとどまり,基礎・基本がおろそかになる危険性もあるのではないかという指摘もあるが,コンピュータが特別なものでなく,やがて美術教育における道具の―つとして定着し,どう表現するかという基本姿勢に立ち帰ったとき,造形表現の基礎・基本とは何かがあらためて問い直され,その重要性も再認識されるであろう。

(4)時間軸をもった作品の制作へ

 美術教育におけるコンピュータの活用で現在行われているのは,コンピュータ・グラフィックと呼ばれる平面作品の制作がほとんどである。
 しかし,ハードウェア,ソフトウェアの進歩により,ビデオで撮影した映像データ等の素材も簡単に扱えるようになったことなどから,今後は映像による時間軸をもった題材の研究・開発,実践も確実に広まって行くであろう。ここ―年余りの間に,コンピュータによる映像編集は急速に普及しており,現段階で学校への導入が可能なほど低価格化も進んでいる。
 時間軸をもった作品の制作は,イラストレーションや模型などをビデオカメラでコマ撮りしてアニメートする手法などが今までに試みられてきたが,コンピュータによる映像編集システムを導入することで,模擬CM作成,短編映画,プロモーションビデオ,学校の行事記録や紹介ビデオといった本格的な映像作品の制作が考えられる。

(5)次年度の実践研究へ向けて

 マルチメディアという言葉が登場して久しいが,形体や色彩といった従来の造形要素に加え,音楽やストーリー等も加えた総合的な表現手法は,長い間平面や立体での表現にとどまってきた美術教育における新機軸であり,「映像メディア表現」の新設がもたらす新たな展開である。
 本研究は,次年度において,その可能性と課題点,また,表現することがメディア・リテラシーにどうつながるのかを,題材設定や構想段階での手だて等を中心に,コンピュータによる映像編集を教材とした授業実践を通して検証する予定である。

<参考文献>
1)文部省「高等学校学習指導要領」(平成11年)
2)文部省「中学校学習指導要領」 (平成10年)
3)文部省「中学校学習指導要領解説 美術編」 (平成11年)
4)柴田和豊「メディア時代の美術教育」国土社 (平成5年)


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