研究紀要第123号 「学力向上のための授業改善に関する調査・実践研究」 -029/076page

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高等学校芸術科(美術)

芸術科における「映像メディア表現」の工夫 (―年次)

1 研究の概要

(1)研究の趣旨

 次々と新しいメディアが開発され,加速がつくように発展し続ける近年の視覚文化の隆盛は,美術教育の枠組みを大きく揺るがし続けてきた。美術教育はその対象となる領域を従来の「美術」にとどめるべきなのか,それとも現在の視覚文化全般にまで拡大するのか,美術教育は進むべき道を模索していたといえるであろう。
 このような状況の中で,平成11年3月に告示された高等学校学習指導要領の普通教育に関する芸術教科の科目,美術I,II,III,の表現領域に,従来の絵画,彫刻,デザインに加え,「映像メディア表現」という新しい分野が加えられた。これは,美術教育を現代社会の視覚文化に積極的に関わらせていくという方向性を明確に指し示したものであり,画期的な改編と受け止められている。

表現領域における分野の改編
現代の学習指導要領
● 絵画
● 彫刻
● デザイン
新学習指導要領
● 絵画・彫刻
● デザイン
● 映像メディア表現

 本研究では,平成15年度からの新学習指導要領の完全実施に向けて,高等学校芸術科美術における「映像メディア表現」の可能性を探りたい。

(2)研究の内容

a.先行研究,先行実践例の調査研究
b.映像メディア表現の現状と諸問題の把握
c.教材としての可能性の考察
d.教材化の視東、と題材設定の工夫
e.授業実践による検証と課題点の洗い出し

(3)研究方法

a.先行研究,文献等の調査研究
b.中・高等学校における先行実践例の資料収集及び研究
c.高等学校学習指導要領解説(芸術斜編,美術編)の理解
d.指導計画の作成
e.研究授業の実施
f.研究授業の検証と研究のまとめ

2 本年度の研究より

(1)現代の視覚文化と美術教育,生きるカ

 学校における美術教育の内容といえば,「絵画」や「彫刻」に代表されるような,いわばアカデミックな表現活動といったイメージが―般的に強いように思われる。実際に,現在行われている美術教育は「デザイン」も含めて,もっぱら社会的に評価の確立された表現・造形の方法論に基づいたものであり,文化継承の意味合いが強いものといえよう。
 ―方,マス・カルチャーを中心としたメディアは,発展,拡大し続けており,変容を続ける視覚文化の中で私達は生活している。生徒達も紛れもなくその渦の中におり,日々様々な表現に触れ,現代社会における「感性」の広がりを体感している。
 現代の視覚文化と,従来の伝統的な美術の教育内容とのギャップは,ますます広がりつつあったが,今回,学習指導要領の改訂において,中学校美術科では,新たな表現手法やメディアの活用を示し,高等学校芸術科美術では,「映像メディア表現」という表現分野を新設することで,美術教育の枠組みの拡大が図られた。
 これは現代のメディアがもつ様々な表現手法を美術あるいは芸術として許容できるか否かという問題とは別に,混沌とする現代社会においていかに主体性を育てるかという,教育が抱えている今日的命題に答えたものといえるであろう。「生きるカ」につながるメディア・リテラシーの獲得も美術教育が担っていくということである。


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