研究紀要第127号 「「生きる力」を育てる学校教育の改革」 -006/074page
子供たちの活動に対する教師の指導・援助は欠かせない。(財)中央教育研究所がまとめた「『総合的な学習』の実践研究小学校編その2」に紹介されている事例にも,総合的な学習を進めていく活動を支えるものとして,教科学習で得た力が大きいことを述べているものが見られる。 注10
昨今,教師の資質能力の向上にかかわって「教科などの専門的知識」とともに「教育者としての使命感」「教育的愛情」「広く豊かな教養」等が求められている背景には,そのような教師の役割の再構築があるものと考えられる。「生きる力」の基盤には思いやる心,感動する心,偉大なものへの畏敬の心といった人としての豊かな心がなければならないのは当然である。その心をもって自分の将来を開拓していく強い意志と実行力をもつ,そういう子供を育てることが必要なのである。
学校の独自性が強く求められてきている背景として,ビジョンに裏付けられた教育実践を展開していく教師,一人一人が自分の職分を通してコーディネーターとしての力量を発揮し,家庭や地域の潜在的な教育力をも引き出していく教師が求められているのである。
4 研究の成果と今後の課題
1 研究の成果
日本の社会構造が大きく変わろうとしている今,学校の在り方もまた大きく変わっていかなければならない。当センターでは,すでに「『生きる力』としての『学力』を育てる学校教育の創造」を主題として進めてきた研究を基に,より発展させる形で「生きる力を育てる学校教育の改革」をいかに進めればよいかの研究を始め,次のようなことが確認できた。
(1)社会体験,自然体験を得にくい生活となっている現状を踏まえ,学校が体験活動を中軸に置いた教育活動を計画的,組織的に展開していく必要があること。その中で,自校ならではの特色も出していくことができること。
(2)体験重視の学習を展開するためには次のようなことが必要であること。
○ 子供たちの興味・関心を高めることのできる教材・教具の開発
○ 提示の工夫,地域の素材,人材の積極的な活用
そのためにも,学校を地域に開き,地域と一体となって教育活動を展開していくことが大切であること。その過程で,教師一人一人が自らの専門性を高め,指導力を高めていくことができること。
(3)コンピュータを子供の学習過程に活用するにとどまることなく,教育情報の共有,データベース化による利便性の向上等にも発展できること。
(4)一人遊びやバーチャル体験中心の生活となっている子供たちに人間関係を育てる活動を取り入れることにより,学びを保障するとともに社会性も育てていく必要があること。
2 今後の課題
(1)体験活動を取り入れた場合,子供たちはどうしても遊び感覚を強く持ってしまいがちである。体験をどのように学びに結び付けていくか,学校経営・学年学級経営・教科経営の各視点から追究していく必要がある。
(2)子供たち一人一人の社会性を育てることは,情報化が進展するこれからの社会にあって重要な課題となってくる。お互いを認め合い,高め合う人間関係を構築する手立てをどのような機会や場ですすめるのがよいか,追究していく必要がある。
参考文献等
注1 平成12年度 我が国の文教施策(文部省)
注2 子どもの体験活動等に関するアンケート調査の実施結果について(文部省生涯学習局青少年教育課)
注3 小学校学習指導要領解説(総則編)平成11年5月(文部省)
注4 モノグラフ・小学生ナウ Vol.19−3「子どもは変わったか」(ベネッセ教育研究所)
注5 尾木和英「個と集団を支える豊かな人間関係」(教育展望臨時増刊 No.29)
注6 第15期中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(文部省)
注7 全国教育研究所連盟編「新しい学校を創る」(ぎょうせい)
注8 和田秀樹「<自己愛>の構造」(講談社)
注9 第3回国際数学・理科教育調査 第2段階調査結果(週刊教育資料No.695)
注10(財)中央教育研究所編「『総合的な学習』の実践研究小学校編その2」