研究紀要第129号 「自ら学び考える力を育成する授業改善に関する研究1」 -021/074page
自ら学び自ら考える力を育成する授業改善に関する研究1
−児童・生徒が「学ぶ楽しさ」と「成就感」を味わえる授業を目指して−
学習指導部
第15期の中央教育審議会の第一次答申において,「生きる力」の育成が提言された。その答申を受けて教育課程審議会は,「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し,児童・生徒に「生きる力」を育成することを基本的なねらいとし,4つの方針に基づき,教育課程の基準を改訂することを提言した。 学習指導部では,この4つの方針の中の「自ら学び,自ら考える力を育成すること」に焦点をあて,授業の改善を図るための研究に取り組んだ。副題に示す「学ぶ楽しさ」と「成就感」を味わえる授業が実践されるならば,児童・生徒は自分のよさや可能性を発見し,自己を高めようとする意欲を持っことができると考えた。この意欲が,主体的に学び,自分の考えや思いを的確に表現し,論理的に思考し,判断できる資質・能力,すなわち自ら学び,自ら考える資質・能力をはぐくむことになる。このような視点に立ち,各教科の特性を生かしながら,授業の改善に関する研究を行うことが,「生きる力」を育てる学校教育の改革につながると考えた。 1 研究の概要
1 研究の趣旨
第15期の中央教育審議会の答申を受けて,教育課程審議会は教育課程基準の改善のねらいの一つとして,「自ら学び,自ら考える力」を育成することを挙げた。
(授業観の転換) 新しい時代を迎え,ますます変化が激しくなると予測される今後の社会においては,できるだけ多くの知識を教え込むことに力点が置かれていたこれまでの教育の基調を転換し,学習する主体である子供たちの立場に立って,子供たちに「自ら学び,自ら考える力」を育成するための教育を行うことが重要である。すなわち,「教え込み」による「伝達型」の授業観から,「自ら学ぶ」能力と態度を身に付ける「自己学習型」の授業観へ転換し,学習者主体の授業へと移行することが求められている。
(自己教育力の育成) このような授業改善を行うためには,個の存在に一層光を当てて,子供たち一人一人が「自己を改革し,自己を実現しようとする力の育成」,すなわち「自己教育力の育成」を目指すことが重要である。そのためには,学習者自らが学習の結果得られた自己の変容を評価し,自己効力感を感得できることが必要である。このような意識的な感覚及び情意面での反応のもとになるものは,学習活動に対する好意的な感情である。この感情は,自分の行っている学習過程の状態や方略を評価し,主体的に学ばうとする学習態度を育成し,「自己教育力の育成」を促す。このような好意的な感情は,学習の過程で感得できる「学ぶ楽しさ」や「成就感」から生じる感情である。
(学ぷ楽しさ・成就感) 「学ぶ楽しさ」や「成就感」は,短時間で容易に味わうことができる感情ではない。発達の状況に応じて適切な課題意識を持たせ,その解決に向けて学ばうとする意欲を喚起し,学ぶ意義を理解することができる授業を展開することが,必要不可欠である。そのような授業を通して子供たちは「自ら学び,自ら考え」て問題を解決し,その学習過程において「学ぶ楽しさ」や「成就感」を味わうことができる。このような学習過程を大切にした学習によって得られた学力こそが,「生きる力」としての「学力」であると考える。
本年度学習指導部では,各教科の特性を生かしながら,「学ぶ楽しさ」や「成就感」を味わうことができる授業の改善に向けた実践的な研究を行った。