研究紀要第129号 「自ら学び考える力を育成する授業改善に関する研究1」 -032/074page
用紙には,各カット枠と文章による補足説明の欄を設けた。
絵コンテの作成にあたっては,のちに無理が生じないように,いつ,どこで,何を撮るのかといったビデオ撮影の計画や,写真などの素材の選択,確保もあわせて考えるよう指導した。
(3) 素材の撮影や収集,編集作業のポイント
絵コンテの作成によって構想がまとまると,次に素材の撮影や収集の段階となる。
編集の準備として,写真などの静止画像をスキャナで取り込んだり,ビデオ映像で必要と思われる部分をおおまかにコンピュータに読み込ませる。この活動をスムーズに行うためにも,しっかりと作品の構想を立てておくことがポイントになる。
編集作業はグループごとに場面転換や特殊効果などをモニター上で確認しながら進める。今回は,素材の取り込みも含め,編集作業に要した時数は8時間程度であった。編集終了後,必要に応じてビデオテープ等に出力し,作品の完成となる。
3 研究のまとめ
(1) 成果
授業実践後,生徒に対するアンケート調査を行い,発想・構想段階における手立ての有効性,日常の身近な映像作品に対する意識の変化を調べた。
発想や構想時における付箋紙の活用および絵コンテの作成は,何らかのかたちで制作に役立ったと答えた生徒が90%以上を占めた。
アンケートでは発想や構想が重要であったとする回答が多く,付箋紙の活用や,絵コンテの作成等,手立ての有効性が確認できた。
「身近な映像作品に対する見方が変わりましたか」という問いに対しては,こちらも90%以上の生徒に意識の変化が見られた。制作活動を体験することによって,映像情報をより主体的に受け止められるようになり,幾分なりともメディア・リテラシーの獲得に寄与するところがあったといえよう。
(2) 課題
同アンケート調査において,制作活動における生徒のつまずきを探ったところ,次の二つが回答のほとんどを占めた。
<1> 時間的要素をもつ素材の扱いや組み立て
生徒にとって時間的要素をもつ映像作品の制作は初めてであった。どのような映像が必要か,それをどのようにつなぐかを考えることは制作上の一番の問題であると同時に,教師にとっての授業のねらいでもある。授業時数を十分に確保し,生徒が自分の表現に納得のいくまで試行錯誤をさせたい。
<2> コンピュータの操作やソフトウェアの活用方法の習得
この問題については学校教育におけるコンピュータのさらなる普及,活用に期待したい。また,基本的知識を持っていたとしても,編集のシステムに対する理解や,ソフトウェアの習得にかける時間は必要となるが,その場合でも,美術教育における表現の一手段としての機材活用であることを念頭に,授業が単なる技術面のみの理解や習得に終わらないよう留意すべき必要があると思われる。
(3)「映像メディア表現」の展望
今回の授業実践においては,生徒全員がいろいろな問題に突き当たり,つまずきながらも,予想以上に様々な発見や驚きがあったことがアンケートの回答からも読み取ることができる。また,次回はどのような作品を作りたいかという設問には,ゲームのCMやミュージック・クリップ,短編映画など,ほとんどの生徒が明確な具体例を回答し意欲を示している。
「映像メディア表現」の学習活動で芽生えるこのような知的好奇心は,美術の授業にとどまらず,ビデオによるレポート作成や課外活動の記録,また総合的な学習の時間での活用へと発展することも考えられる。それらの活動が,映像表現に対するさらなる理解の深まりや,次なる制作への意欲をはぐくみ,やがてはメディア社会に主体的にかかわる力を形成することになるであろう。
<参考文献>
1)柴田和豊編「メディア時代の美術教育」国土社(平成5年)
2)佐藤やすし著「Mac de DTV」ソーテック社(平成12年)