福島県教育センター所報 第3号(S46/1971.10) -001/025page
巻 頭 言
第2研修部長 山 内 正 弥
去る9月14日,当教育センターの落成記念式典が,秋の澄みきった空のもとで,文部大臣代理ならびに副知事をはじめ関係者臨席のもとに盛大かつ厳粛に行なわれました。
福島県が全国にも屈指といわれる施設・設備をもった教職員のための総合研修の場を建設したことは,教育県として誇るべきものであり,関係各位の熱意と積趣的な施策に深く敬意を表したいと思います。教育センター建設の気運は全国的傾向にあると思われ,当センターに対する関心は深く,各県からの視察者が次々に見えております。このようにりっぱな施設・設備を与えられたわれわれは,その円滑な経営と効果的な活用によって,本県学校教育の向上を図る大きな責務を感じております。
当センターにおける宿泊研修は去る8月3日から開始され,現在17講座が終了し,引き続き次の講座を実施しておりますが,受講された方から研修期間・講座内容・宿舎関係・その他という項目で意見や感想をいただいて絶えず問題点の改善を図り,円滑な運営に努力しております。開設早々のことで,すべてが完全とはいわれないけれども,とくに大きな問題もなく,概して好評を得ているように思われます。ただ目下のところ宿舎から本館に通ずる渡り廊下がないため雨の目には困るという意見が多くありますが,これには相当の経費が伴なうものでありますので,センターとしては施設の面からみた今後の課題とし,早急に実現するよう努力いたします。
つぎに第2研修部の担当である理科講座・技術家庭科講座の第1回目を実施して,講座の内容の面についての所見を述べてみたいと思います。研修に参加される先生方には二通りの考え方があるようです。一つは研修事項が教材として現場ですぐに役立つような内容のものを研修したい。もう一つはこの機会にもっと専門的な内容を深めたいということであります。そして前者の理由として,現場では雑務が多く,教材研究をする時間的ゆとりがないということがあげられております。現場の忙しいことは一応もっともなことと理解はできますが,しかしそれだけで片付けてよいものであろうかと疑間も感じます。講座における教材としては,参考例として取り扱うことはできるが,これを直ちに生徒の教材に取り上げることび)是非については,直接担当される先生方の判断によるのではなかろうかと考えます。それは生徒の実態を知り,環境条件をじゅうぶんは握しておられるのは担当の先生をおいて他にないからであります。当センターで講座内容に取りあげるものは,もちろん現場と全くかけはなれたものであってはならないが,少なくとも教師としての専門性を高めることをふまえたうえでの教材を扱っていきたいと考えております。
また,生徒に何を教えるかということに苦心しておられる方が多いように感じましたが,私なりに考えますと・何を育てるかということがたいせつなことでなかろうかと思います。教えるという観念には知識を植えつけることを重視する考え方が強くはいっているように感じます・教育の現代化・理科教育現代化など現代化の意義には「育てる」という考え方が打ち出されているように思われますがどうでしょうか。
技術家庭科指導研修講座で,木材の材料試験を行ないましたが,先生方の測定結果には予想以上のバラつきがありました。木材という自然材であるから数量的に一様の結果が得られないことは当然としても,予め試みたデータにくらべてそのひらきはかなり大きかったようです。しかし,数値的に差があったとしてもこの結果から木材の定性的なものはじゅうぶん観察できるのであります。数値の誤差は白分の実験過程を顧るとき,その原因を追究できるし,次回にはさらに縮めることもできるものであります。また精度が必要ならばこれに応じた施設・設備と実験の熟練が解決してくれることでしょう。私は,この定性を見い出すまでの過程がたいせつにされなければならないし,ここに教育のねらいがあるように思っております。文部省編「新しい理科教育」には,知識そのものの吸収よりも,それを獲得していく過程において,科学的な見方,考え方を身につけることが重要であると説明されております。このことは各教科にも通じることではないかと、思います。
以上第1回目の講座を担当して感じたことを述べましたが,研修に参加された先生方が非常に熱心であったことに深い印象を受けております。