福島県教育センター所報 第3号(S46/1971.10) -002/025page
教育内容・方法に関する研究,資料提供
――小・中・高, 教材研究を中心として――
漢字の効果的指導についての一考察第1研修部 石井 喜美雄
「漢字はむずかしい。」というのが児童・生徒の共通した意見である。先生方にも,国語科指導で障害になる条件の中に,この漢字問題を提示していることが割含に多い。指導要領の改訂を機に漢字指導ということを考えでみたいと思う。
1.国字問題
戦後まもなく国字問題が論議されたことがある。かな文字論,ローマ字論,漢宇制限論らがそれである。各論とも独自の立場を主張しあったが,漢字を廃止してかな文字やローマ字にしてしまうことには異論があり,結局は漢字を制限して,難字の改正を実施することによって,教育漢字881字,当用漢字1,850字が選定されたのである。
国立国語研究所が,昭和25年1月〜12月までの「主婦の友」の使用漢字総数17万字を調べたところ,82%が教育漢字,12%がそれ以外の当用漢字,わずか6%が当用漢字以外の漢字で,その字種はおよそ1,700字であった。これらの調査によれば,9%ないし6%の漢字をほかの書き方に代えることによって,漢字を1,OOO字ないし1,850字に押えることができる。(木之下,上村,古田共著,国語概説による)これは興味のある調査資料である。
2.新指導要領による漢字指導
43年度改訂の指導要領の重、点の中に,漢字学習が強調されているが,次の表によって比較してみる。
学年 33年度改正の指導要領 43年度改正の指導要領 1 ○第一学年配当漢字を中心とした40〜50字ぐらい読み、そのだいたいを書くこと。 ○第一学年に配当されている漢字を含め、70字ぐらいを読み40字ぐらいを書くこと。 2 ○第二学年までに配当されている漢字を中心として140〜160字ぐらいを読み、そのだいたいを書くこと。 ○第二学年までに配当されている漢字を含めて、220字ぐらい読み、140字ぐらい書くこと。 3 ○第三学年(以下文をs略して数字のみあげる)310字〜350字 ○第三学年(以下文を略して数字のみあげる)410字・・・310字 4 ○第四学年 500〜550字 ○第四学年 610・・・500字 5 ○第五学年 680〜740字 ○第五学年 800〜680字 ○第五学年までに配当されている漢字以外の漢字を指導するときは6年配当の※印のものから選ぶこと。
6 ○第六学年 800〜881字 ○当用漢字別表の漢字(881字)を読み別表以外の当用漢字(備考漢字)を120字ぐらい読む。 ○別表漢字を主として、当用漢字のうち800字ぐらい書くこと。
この比較表から考えられることは,43年度改訂の方では各学年とも読む漢字の数が増している。しかし書く漢字の数では,33年度の「読む漢字の数のだいたいを書くこと。」というのに対して,「40字ぐらい書くこと。」というようにめやすとなる数字があげられている。「だいたい」と「何字ぐらい」とではおのずからその意味がちがう。指導するときにたいせつたものではないかと思われる。また今回の改訂によって漢字の数が増したということは,直上学年配当漢字の.繰下げがあるためであるが,その繰下げ漢字はどうしてきめられたかを知るのも指導の手がかりになるのではあるまいか。次に一部学年ではあるが基礎調査資料を紹介することにする。2年生から1年生へ繰下げられた30字についてみると,
読み 書き 読み 書き 読み 書き 小2 小3 小2 小3 小2 小3 小2 小3 小2 小3 小2 小3 町 88 99 84 98 見 99 99 91 95 林 80 97 79 95 村 93 / 70 92 有 83 98 77 94 出 89 97 75 95 入 96 96 73 75 力 87 96 78 94 千 93 95 79 95 虫 98 / 70 88 年 94 97 68 93 車 81 96 61 96 犬 91 97 78 91 名 96 / 89 92 円 97 / 93 99 長 87 98 51 93 気 97 / 71 96 王 85 94 70 91 字 61 99 47 89 男 95 99 75 92 音 96 96 54 88 百 91 99 65 82 立 90 / 70 93 休 97 98 86 87 文 80 98 55 87 早 95 99 83 89 学 87 95 78 98 空 97 99 79 96 天 84 97 69 74 校 89 99 73 95
3.漢字指導の意義
基礎資料についてのべてきたが,ここでは指導のもっとも基本となる漢字指導の意義についてまとめてみたい。
須藤久幸先生(神奈川教委指導土事)はその著書「漢字指導の計画と展開」の中で,次のようにのべている。
(筆者の要約)
(1) 言語生活の読み書きの領域では,日本語の特徴として漢字が重要な位置をしめる。読み書きの能力は近代社会の成員として必然的に備えていなければならない本質的要素である。
(2) 世界の平和と文化の発展創造に力をつくせる基礎カを持たせるためにも文字力が前提となる。
(3) 漢字の習得は,個人の人格を形成するとともに社会