福島県教育センター所報 第4号(S46/1971.12) -020/025page

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緘黙(かんもく)

(学校では口のきかない子)

研究・相談部  伊藤 武司

緘黙 (かんもく)とは,黙りこくりやしゃべれない状態の総称である。

緘黙をその原因によって大別すると,つぎの三つが考えられる。(教育相談事典)


1型  器質的障害による緘黙 (ろう性緘黙)
蝸牛殻ないし聴神経の異常,先天梅毒,猖紅熱,クレチ病による中耳内面の肥厚などに基づく先天ろうや脳炎後遺症,チフスないし外傷による後天性ろうなどを原因とする。

2型  機能的障害による緘黙
知能欠陥,小児精神分裂病,早期幼年自閉症校どを原因とするもの。

3型  心理的原因による緘黙 (心因性緘黙)
心的外傷(心の痛手)後退的傾向などにより,学校内その他特定場面でのみ現われるもの。

以上3種のうち,最も多く教育相談の対象になるのは3型の心理的原因による緘黙である。以下心因性緘黙について解説する。

1. 発現状況

内山調査によると,小学生男児で0,13%,女児では0.24%とやや多く,全体では1,000名の中約2名の発現をみている。また発現場面では,授業中および未知の場面が多く,逆に近隣,家庭等は少ない。

2. 特質


(1) 知的能力が低く,学業成績は最劣が過半数である。

(2) 生育歴にも問題のある者が多く,出産状況の異常,言語,歩行の遅滞を示すものが目立つ。

(3) 近親者に多く発する傾向がみられる。

(4) 親の養育態度が不適切で,放任,溺愛等の影響がみられる。

(5) 養育者の杜会・経済的地位の低い者が過半数を占め,家計状況も中の下および下が多い。

3. 指導における基本的態度


(1) 緘黙の原因となっているものを取り除くこと。

(2) 適応力の漸増をはかり,耐性と自信をつけること。このためにねばり強い指導を続けることが肝要である。

4. 緘黙児指導の要点


(1) 話すことに対する不安解消についてのくふうをする。

(2) 言語活動を豊かにする。

(3) 自分の意志を言語によって,積極的に表現する訓練をする。

(4) 忍耐カ(耐性)を高めるくふうをする。

(5) 特定の外傷的経験と結びついている緘黙については,無意識に働く外傷的経験とのつながりを断つくふうをする。
なおこのことについては, 心身に問題をもつ児童の理解と指導 (文部省)P.113を参照されたい。

5. 治療 (7段階指導)


Aの段階 ラポートをつけることを主とする。
(個人面接,「ハイ」の返事)
Bの段階 人間関係になれさせる。
(友人といっしょ,あいさつ)
Cの段階 小さな集団生活になれさせる。
(5〜6人で、簡単な文章の朗読)
Dの段階 学級でより深くなじませる。
(あらかじめ練習させて,配る。集める)
Eの段階 授業場面に参加できるような努力をする。
(答えられる内容の質問―成功感)
Fの段階 学校への適応,教師への接近を図る。
(話す訓練,口頭伝言,ほめすぎない。)
Gの段階 学級と家庭をことばでつなぐ。(仕上げ)
(母への伝言,電話で教師へ。強制しない。)

6. 考察

この指導の成否は,これを受け入れる学級の状態,学級集団の質にかかっている。明るい雰囲気,受容的態度,人間尊重の心,グループ学級の仕事を積極的に果たしている建設的な学級の条件を整えなくてはならない。


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