福島県教育センター所報ふくしま No.6(S47/1972.6) -001/025page

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巻  頭  語

所 長   白  岩  和  夫

写真 白岩 和夫

 本年は学制発布百周年に当たり正に記念すべき年に際会している。百年間にわたるわが国の教育発展の跡をたどり,先人の労苦をしのび先覚に学ぶとともに,進展して止まない時代の要請に即応できさらに未来をひらくものとして,教育をより全きものにしてゆく覚悟を新たにするときであると考える。

 周知のとおりわが国の明治開国以来のすべては「先進国に追いつき追越せ。」であり,教育もまたそのらち外ではあり得なかった¢その結果わが国の教育の普及と充実は・世界第1級の域に到達したものであることは内外の斉しく認めるところであって,先般の明治百年に際しユネスコが,わが国の進展に果たした教育の役割りと成果をその機関紙クーリエに「日本教育の大勝利の秘訣」と題して12カ国語をもって世界に紹介したことにも明らかなところである。

 しかしながら,諸外国にも驚歎されるような教育の発展伸長には一面において無理や難点−それは社会条件その他もろもろのものを大きな要因とする−も少なからずあり,○個人の能力を伸ばすよりも選抜が重視されている。○価値観を身につける教育と政治教育が混同されている。など,来日した外国人から指摘されているような,早急にあるいは根本的に刷新改善されるべきゆがみや問題が在ることは否定することができない。いまわが国の教育界の目は中教審の答申をめぐっていわゆる「第3の教育改革」に向けられているが,それはこれらの改善や解決と時代の急激な進展・変ぼうに即応しようとすることを目的とするものであるということができよう。

 また,「主体的学習」といい「発見学習」といい,「創造的学力を高める授業過程」や「あすに生きる子どもを育てる教育」等々,幾多の研究・実践が盛んに行なわれていることもBrunerらなどの新しい教育理論に基づくものであると同時に,それは大正年間の創造教育・開発教授にもつながる歴史的系譜を持つものであると言つてよく,教育活動をその本質に立ったものにしようとする努力であって誠によろこばしいことである。

 ただ注意されるべきは,教育理論特に方法論は唯一絶対というものは存在し得ないわけであって他の条件とりわけ被教育者の実態実情と相関するものであるという一事である。また教育が他と区別される特質はその成果が早急に期待さるべきでないことに在るが,反面児童生徒の側からは常にそれは1回かぎりのものであることも忘れられてはならないのであって,個人的な懇意によるむやみな試みなどが安易になされるべきでない。だからといってよりすぐれたものの探求が躊躇(ちゅうちょ)されてはならず・むしろ新しい教育理論・方法の研究や実践は教育専門職としての重要な責務であり,「常に研さんし前進する者のみが人の師たる資格がある。」と言った先人のことばに合致することにもなるであろう。

 次は嘉永7年(1854)に御番替えのためある旗本がその上役に提出した書類の,現在の履歴書学業欄に相当する部分である。
・槍術〜宝蔵院流高田派免許25年けいこ酒井要人門弟・弓術〜日置流免許25年けいこ堀久左エ門門弟・馬術〜信置流目録21年けいこ九鬼左近門弟・剣術〜一刀流忠世派初伝23年けいこ近藤弥之助門弟・学問一朱子学25年けいこ中條鍬太郎門弟
 30代の壮年と思われるが,当時の武士の一般的な教養・教育内容がうかがわれる。
 注目されるのは永年にわたる修業の継続ということであり・「専門的研究・研修の徹底」「生涯教育」等のことばが連想される。生涯教育の理念と実際はHelyやLengrendの論文や提案をまたずすでにわが国に存在したといってよいのではなかろうか。

 教育センターも開所第2年めとなったわけであるが,教育専門職としての研究と研修の要請にじゅうぶんこたえることのできるものとなるよういっそう努力する覚悟である。そのためにも当面の最も大きな課題の一つに教育関係資料の整備があり,各方面のご協力により次第に充実されて来ているが,今後ともよろしくお願いしたい。
 当センターが本県教育関係の方々の文字どおりのセンターとして活用され,「豊かな人間形成をめざす生涯教育」の実現が大いに推進されるよう念願する。


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