福島県教育センター所報ふくしま No.10(S48/1973.3) -001/021page

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白岩写真

  巻 頭 言

       所 長   白 岩 和 夫

 本年度は明治5年(1872)学制が発布されてから百周年に当たり,各種の記念行事や記念事業が行なわれるとともに,各方面において教育の在り方やビジョンについての論議がなされ,教育の新しい出発が期された年であった。

 「被仰出書」には「邑二不学ノ戸ナク,宋二不学ノ人ナカラシメンコトヲ期ス。」とその趣旨とするところが明らかにされているが,以来1世紀にわたり幾多の曲折変遷を経てわが国の教育は〜幾つかの解決すべき問題点をはらみたがらも〜現在世界第1級のものに桶することは,国際教育年(1970)におけるユネスコ本部の表明にも評価されているところである。

 先般東南アジアから来日した視察団のひとりが語ったといわれる,「日本の近代的発展の様相,工場・建物・交通機関をはじめもろもろのものは、かねて予期していたとおりであって敢て大き在驚きではなかった。むしろ驚きを禁じ得なかったのは靴みがきのおばさんが新聞を読んでいる姿であった。」ということばにも象徴されているように,わが国における教育の普及と発達の実情は,いわゆる開発途上国と呼ばれている国の人々をはじめとして世界各国の人たちに特別な反響を与えているようである。

 しかし,時代は急速に進展しており,科学技術は驚異的に進歩し社会機構は急テンポで複雑化し高度化している。教育もまたその将(らち)外ではあり得ず,新しい時代におけるその在り方が間われて来ているのである。

 かつて文化遺産の伝達が教育の最も主要な意義であり内容であったことから,新しいものの開拓に向かう創造性豊かな人間の育成に重点が置かれるものになろうとしていることは周知のとおりである。また,教育が主として人生の基礎的な一定の時期に限られて行なわれるという考え方から,「教育は生涯にわたって継続されなければならない。」(ユネスコ生涯教育局長ラングラン)というとらえ方になりつつあることもここに改めて説明するまでもないところである。

 また一面において,「70年代は教育の量から質への時期である。」とも言われている。このため「教育の現代化」・「教育の科学化」・「教育方法のシステム化」等々,教育の制度・内容・方法の全般にわたって大きな改革と進歩とが行なわれようとしている。

 正に教育の転換期であり新しい1世紀への出発の時であると言うことができるであろう。

 しかしながら,時代がいかに進展しようとも,教育の在り方がどう変革されようとも,最も肝要なことは,教育は「人間形成」という原点をしっかり踏まえた上のものでなければならないということであろう。「人間形成」という目標の確立とそれに結びついた実践こそがすべてに優先されるべきであることを忘れてはなるまいと思うのである。

 さて,当面する重要な課題として「教育の効率化」と「教職の専門性の確立」が挙げられるが,本年度の教育センターの事業がこのことのために果たした成果について謙虚に検討し,来年度の出発の基盤にしたいと考えるので,大方の率直なご意見ご要望をいただくことができれば幸甚である。


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