福島県教育センター所報ふくしま No.11(S48/1973.6) -001/025page

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白岩和夫

 巻   頭   言




所 長  白 岩 和 夫

学習理論・学習指導法の研究について

 学習理論・学習指導法の研究は,教育活動における中心課題に関する最も緊要なことである。
 その所説がわが国に紹介されて以来,時代の要請に即床して大いに研究と実践が進められているものにJ・S・Brunerの「発見学習」がある。これは「知識の生成過程をたどらせることにより意欲的に学習を行なわせて学習成果をあげようとする」ものであり,厳密には履修活動のであるが,学習者本人にとっては発見活動であり主体的創造的活動であるところにその特質がある。この「発見学習」という学習理論はBrunerによってはじめて発見発明されたものでないことは,教育史・教育学史をひもとくまでもなくコメニウス,ルソー,ペスタロッチ,スペンサー,デューイ,ラッセルはじめ欧米やわが国の教育学者の説く中にその原型が見出される。いわば近代教育学を一貫するものであって,技術革新の時代に新たに見直されたものであるということができるのである。
 この学習指導法は概念・原理・法則等の学習すなわち理数教科に最もよく適するものであって,要素的な知識や基礎的基本的底技能の修得には不経済であり,誤りを導入する可能性もあって場合によっては有害でさえもある。研究学校の状況などを見ても,理科・算数数学・社会が中心となっており,思考教材・技能教材・表現教材と分けて思考教材に重きを置くなど,モデル的なものを選んで研究し実践していることからもうかがわれるのである。この「発見学習」につながるものに「課題解決学習」「主体的学習」「探求学習」「仮説実験学習」等々があるが,それらの相違は問題設定や力点の置き方によるものであって,いわゆる「説明的学習指導」に対応するものとしてとらえることができる。ややもすると説明的指示的な授業に終始するおそれなしとしないことから言ってきわめて価値の高い学習理論である。しかし反面,「発見学習」はじめ一連の学習理論を高く評価するあまり,説明的な授業形態やその意義を認めないこともまた誤りであることはいうまでもあるまい。
 キッテルやウィトロックなどアメリカの心理学者が「一般に記億の持続や転移力・学習スピード等は適度の指導や説明を受けた者の学習成果がよい。」という研究発表をしているが,これはある示唆をわれわれに与えるものである。
 学習指導においては,児童生徒の興味や関心を重んじ自主的・自発的な学習をするように指導することの重要性は述べるまでもないところであるが,教師の指導性の程度が問題であって,主体的学習・受けとり学習・機械的反復学習等の段階があり,これらがいろいろな条件に即して適切に行なわれることが最も肝要と考える。
 すべて,学習理論・学習指導法の研究には,「その本質的なものをとらえ長所・問題点を明らかにし,教科の特性ならびに児童生徒の実態等の諸条件に応じて,これを生かすにはどうすればよいかについて考究する」ことが大切であり,実践上は「一つの学習理論・指導法に固執することなく各種の方法を相補的に用い,指導法の多様化によって成果をあげる」ことに留意すべきであろう。
 学習指導の改善と充実のため,学習理論・学習指導法の研究が今後とも大いに行なわれ,目標や教材等に即したきめの細かい実践がなされることを期待するものである。そしてそれは,「教育の効率化」「教師の専門性の確立」という大きな課題につながるものであるといえよう。


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