福島県教育センター所報ふくしま No.12(S48/1973.8) -001/025page

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丑込幸男

 巻   頭   言


第 1 研 修 部 長
 丑 込 幸 男

人 間 形 成 の 過 程 で

 学校の教育目標は,その表現からみる限りにおいて,さまざまな教育活動を通しての望ましい人間形成をうたっている。にもかかわらず,これまでの学校が,その人間形成を志向しながら,結局,主として知的側面の開発しかできなかったという批判を受けているのはなぜだろうか。
 学校の教育目標は,その実現までには,児童生徒の発達段階に応じた目標の細分化が伴わなければならない。つまり,児童生徒が最終的にできる行動までへの段階づけとその順序性や構造化である。その過程が適切であったかどうかが第一の問題点である。
 次に,この細分化の中心に何をおいたかが究明されなければなるまい。トインビー(Aronld J. Toynbee1889〜)は,その対話集「未来を生きる」の中で,今日の世界が人間性を奪われていることに心を痛め,「教育を人間化する必要,あるいは,教育に人間性を回復する必要がある」ことを説き,これまでの考え方について,「私たちの理想の変更,つまり,私たちの優先順位に転換をもたらすよう底変更」の必要を力説している。人と人との関係がゆがめられ,互いに人間として豊かなつき合いをしていくことが稀薄になってきている社会に対する警句として傾聴すべきである。学校の教育計画も,このことを軸として,全職員で再検討をすることが重要となろう。これが第二の問題点である。
 また,目標は,教師が学習者に働きかける活動の基本方向であると同時に,学習者によって達成されるものとして設定するのだから,児童生徒の側からの反省資料や問題点の収集が必要である。そして,授業と一体となりさまざまな教育活動と一体となって,実現への努カをつづけていかなければならない。ここでは,教職員各自の協カ・行動力・実践力・創造力等が強く要求されよう。それは,ドラッカー ( Peter F . Drucker 1909〜 )が「経営者の条件」で述べている「効果性」――成すべきことを成しとげるカ――であり,行動科学的研究の「発達動機」にかかわるものと思われる。「発達動機」の研究は,マレー,マックレランド,アトキンソン(アメリカの心理学者)らによって次々に発表されてきた。かれらは,「発達動機の高い人の傾向性」として(1)責任感を強く持っている。(2)つねにやる気がある。(3)新しい場面や未知の状況に対して創造的な思考カを発揮することを好む。(4)自己の成績を正当に評価し,改善のポイントや成功の原因を捜し出す。――などをあげている。この傾向性は,実は,今の学校経営において強く求められているものであり,こうした傾向性をもつ教師の主体性の確立こそ重要になるであろう。これが第三の問題点である。
 最後に,情報化社会においては,社会全体が教育的機能を持つために,学校以外の影響によって,児童生徒が変容することがめずらしくない。教育の質的変化は,かつて予測できなかったところまできているのである。こうした現実に対処するために,教師への要求も多岐にわたっている。その中で,視野を広げ,するどい観察眼を養い,心理学でいう「認知構造の転換」を可能にすることなどについて,教職員各自が,みずからの課題として自已啓発につとめていくことか急務のように思われる。


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