福島県教育センター所報ふくしま No.12(S48/1973.8) -024/025page
人・冷暖房(空気調和)・弊害
庶務係 黒須 聡
私達の身体は,気温に変動があっても限度内であればこれに耐えることができるし,体温もほぼ一定に保たれている。高等な動物ほど体内の組織は複雑で,その機能は精密になる。それゆえ身体の組織がいつでも同じように働き,健康を保つためには体温がー定であることが必要で,体内で生産される熱と外へ出る熱のバランスがとれて,ほどよく人体から熱の発散が行なわれる時,私達は快適さを感じ,反対に発散がうまく行なわれなかったり熱を奪われ過ぎたりする時に不快さを感じるのです。
ところが私達の生活環境の変化は適応する限界をこえているので,衣服を着用し,住居に住むことによって外界の変化から身を守るようになり,さらに進んで,住居内の暖房,冷房などにより外界との熱の授受による消費エネルギーをなるべく小さくし快適な状態を保とうとしています。
改めていうまでもなく,温度が高いほど暑く,低いほど寒い。従来から快適な温度範囲として,「18+−8 。 C」ということがいわれている。すなわち10〜26 。 Cで10 。 C以下になれば暖房が,また26 。 C以上になれば冷房が必要ということになります。
快適な環境にいることが不快な環境にいることに比べてどれだけ能率的であるか・・・・, 米国の連邦政府管財局が行なつた大規模な調査では,能率の向上による生産性の増加が約10パーセント,誤りの減少が約1パーセント,欠勤率の低下が約2.5パーセントという数字があげられています。また,その組にもタイピストや学生たちを対象に,空気調和をしている室と,していない室のそれぞれで作業または試験をしたところ,前者での結果の方がずつと良かつたということが報告されています。こうした実験の結果を持ちだすまでもなく,日本のように世界にもまれなほど夏が蒸し暑い国では,空気調和なしでは健康な生活を過ごすことほむずかしいのです。
しかし,われわれの身体は長い間に四季の気侯の変化に伴って夏は夏向に,冬は冬向きに適応するようになっており,短時間に適応するようにはたっていない。従って,身体のためには外気と室内の温度差は少ないほど出入によるショックが少なくてよいといわれていますが,特に冷房の場合はこのショックがつよく影響し,冷房病の原因になるといわれています。特に女性に多い冷房病は男性に比し,被服の差(スカートとズボン),皮膚温が低い,血管の密度,血管の伸縮性,基礎代謝の性差などが原因になっていると考えられています。
私達は自然界における暑さ,寒さを克服し,冷暖房によって,快適な環境で生活できるようになったのでありますが,理想的なはずの人工環境はあまりにも画一的で,変化に乏しく,皮肉にも四季の変化になじんできた人間の適応能力をそこなう結果となりました。人間は一方において恒常な環境を求める反面,一方において変化を求めているのかもしれない・・・・。
あ と が き
所報第12号ができあがりました。お届けします。夏季休業が終わり,先生がたには,児童・生徒の指導,教育研究・研修などにご精進されたことと拝察いたします。連日の記録的な猛暑と異状渇水のさなか,ご苦労も多かったことでしよう。
ところで読売家庭版8月号に過密学習指導要領と学習塾ブームについての記事が載っていましたので一部抜粋して見ましょう。
――夏休みは児童・生徒たちにとって昔は思いきり楽しく遊べる季節であったのに,現在では学習塾に通っている子たちが,かなり多いようだ。千葉県市川市のK学習塾―酷暑の午後3時半。子どもたちがやってくる。塾生は小学校2年から中学生まで約50人。成績が比較的良くて,受験勉強のために夏の特別学習に通っている子もいるが,大半は「学校の授業についてゆけない」「授業だけでは不安」という親たちの心配から,授業の復習,補足をしてもらっているという。東京・杉並区の小学5年生T君の夏休みの日課をのぞいてみると―。朝7時起床,朝食のあと,9時から10時半まで家で学習。そのあとは自由な遊び時間だが,週2回近くの塾で午後4時半から6時まで学習。夜はまた8時から約1時間机に向かう。家庭での勉強はいつも母親の。監視つきだという。この地区では,小学校上級生がこうした勉強時間に追われ,子ども会たどの活動マヒしがちだ。その反面,学習塾は夏休み返上でにぎわっている。塾にわが子を通わすことが各家庭とも当たりまえのようになってしまったが,そこに子どもの自発心はあまり見られない。小学校高学年約300人にアンケートをしたある調査だと,約50パーセントが通っている。通い始めの動機は「母にいわれて」が最も多くて30パーセント。その時期も4年生32パーセント。3年生が29パーセントで,中学生になると親が学力や成績について不安になり,通わせるようだ。東京・小平市のある塾では「約30人に,国語と算数を復習中心に教えていますが,最近は学校の勉強についてゆけない子がかなり多い」という。進度消化に追われた教育カミ。"落後者"を生んでいるといえよう。
要約しますと以上のようですが,受験競争,教育ママ,教科内容の過密化等の背景から。"塾通いブーム"が生まれているといえましよう。
"学習塾ブーム"というのは,公教育の限界を感じさせるとともに,日本人全部があくせくもがきながら一斉に狭い門のようなところに,ひしめき,殺到しているような錯覚にとらわれてなりません。もっとゆっくり行けないものでしようか。―採菊東籬下悠然見南山―(K)