福島県教育センター所報ふくしま No.18(S49/1974.11) -001/025page
巻 頭 言
第2研修部長 鈴木 宏
エネルギー資源のことがやかましくいわれるようになったのは、一昨年の末頃からであった。そして昨年末のアラブ石油の輸出制限、原油価格の高騰によりエネルギー問題が世界的に関心を集めるようになった。これには、いろいろの理由が考えられるが、その要因の一つとして、石油の有限性約30年後に予想される石油の枯渇が再認識されたからではないかと思う。30年といえば長いようであるが、戦後から今日まで、約30年経過したことを思えば、そう遠い将来とは思えない。特にエネルギー資源にめぐまれない我が国として、エネルギー周題を根本的に考え、解決をはかる施策を立てるのは緊急事である。
通産省においても、こういう事態に対処するため、サンシャイン計画を立て、西暦2,000年を最終目標として、石油などの既存のエネルギーに代わる無公害の新エネルギーを開発する計画を具体的にたて、すでにスタートさせている。それで、これらのエネルギー源、また大学等で研究されているエネルギー源についてみると、大きくいって、原子力、太陽熱、地熱などがあげられるが、これらのうち今後のエネルギー源として重要な役割を果すのは原子力ではないかと思う。
昨年末の石油危機を契機として、原子力発電を早急に推進をはかれという意見が多くなっていることは周知のとおりであるが、しかし公害問題や安全性の問題がからんで計画どおりの開発が進まないようである。また、この外にも解決の急がれる問題があるが、逐次研究の推進により解決されると思うので、今後とも開発が進められ利用は増大すると思う。同時に益々性能のよい原子炉の出現が要請されるようになるであろう。
現在これらの要請にこたえるべく研究されているものに高速増殖炉がある。また一名夢の原子炉とも呼ばれているもので、約10年後には工業化が可能であろうと学者間で取りざたされている。というのは、この開発には相当な時日と経費の要することが考えられ、はじめから国際的な協力態勢の気運にあり、現在の原子力発電所のように、各国ばらばらの状態の研究態勢と違って効果的な研究が行えるので、予想どおりの時期にエネルギー供給源としての役割を果たせそうだということである。この原子炉は現在の原子炉にくらべて、ウランの使用効率は数十倍にも増加されるというので、エネルギーの需要を相当にみたすことができると思う。
それから、目下世界の主要国において研究されている、無限のエネルギー輝といわれている核融合炉がある。これは、水素の同位体である、重水素、三重水素の高温のガス体・つまりプラズマをつくり、核反応を行わせ、そのとき放出する莫大なエネルギーを発電等に利用するもので、この重水素は海水中に含まれるもので、石油やウランと違って資源的には無限といってもよいと思う。また、核分裂エネルギーと異なるので放射能の心配もほとんどないといわれる。従って、人類にとって理想のエネルギーといつても言い過ぎではないと思う。しかし、この技術開発には難問が多く、現状からの見通しで、実用化は21世紀の初め頃といわれている。その時には、恐らく現在のエネルギー危機時代には到底想像することすらできないような、豊かな、明るい杜会を期待することができよう。
しかしながら、この夢を果たすのは、言うまでもなく、あらゆる力の結集によるが、直接の当事者は、現在の、また、これからの科学者、科学技術者の不断の努力にかかっていることは論をまたない。そして、その研究の基礎は、小中学校の理科教育により育成されることを銘記しなければならないと思う。