福島県教育センター所報ふくしま No.19(S50/1975.1) -001/026page

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巻 頭 言

研究・相談部長  星  正

研究・相談部長 星 正

最近,教育界では,子どもの能力についての関心が深い。ブルームは,その能力を次のように分類している。その第1は,知的な意味の認知の領域,第2は,情意の領域,第3は,技能・スキルの領域である。また,ある有名校の目標が,この能力と関連の深い,知る力,見る力,行う力をあげている。学校が,その教育で培おうとする見とおしの鋭さに感心させられる。

これらの力は,現在,ひとしく求められるべきであり,その養われる場は,主に授業にあることは間違いない。従って,ここに学校教師が恒常的な活動として意欲を燃やしている授業研究についてふれてみたい。

授業研究は,教師集団の共同活動として全校的に実施されてきた。これは,教師にとって専門的な技術の分野に属し,学校経営の基盤として組織,運営上の重要な位置をしめている。この研究は,教師と児童生徒の人間関係を主軸として学習を正しく成立させ,深化,発展させて授業をより客観的,科学的なものにする事が最も重要であろう。

現在,学習指導上の問題点の第1は,児童生徒の知識が正しい理解に裏づけされていないのではないかという事である。教える事が主となって,子どもに考えさせたり活動させる事が割合少ないと言われる。第2は,教材の精選や系統性を考える場合に,教材のサイドに比重がかかり,子どもサイドの認知過程が軽視されてはいないかという点である。第3は,子どもが新しい問題に直面する時,現有の学力を投入して問題を解決する力に乏しい事などである。多くの教師は,授業に対する計画性を信じてきた。これは,伝統的な立場を重尊する授業観に基づくものであるが,実は,計画がどこまで授業を可能にするかを考慮しなければならないという。

授業研究に新しい方向を与えたのは,授業分析である。授業分析は,その事前研究,授業観察,指導記録等の一連のプロセスである。教材研究は,教師の重要な使命であるが,教材の後に授業がくるのでなく,授業が教材に優先する方向に進みつつあるといわれる。

現場では,授業を定期的に行い授業者を中心にして,自己の見解を述べながら研究テーマに対して連帯意識をもち,共同体制で研究を推進している。指導案は,その立案の立場を教師相互が理解する事は必要であるが,授業者は,これを真剣に検討して,教材が子どもひとりひとりに有効に働きかける創意とくふうをもつことが大切である。

授業観察は,教育工学的手法の導入と共に,教師相互の分担観察が効果的である。精密な観察か授業を科学的なものへ発展させていくからである。授業観察が,それぞれの項目によって記録されたのが授業記録であるが,この授業記録を整理検討してはじめて授業展開のすじ道を分析解明できる糸口となるであろう。

授業は,一定の内容を伝達し受容させる過程よりも,子どもの思考体制をより重視する発想を大事にしたい。教師が,授業の目標実現に急なあまり,子どもの個性的思考を見落してはならない。すなわち,授業場面における子どもの事実認識の現状を確かめる配慮が望まれる。ひとりひとりの子どもの学習におけるつまずきや,欠落の部分などをチェックポイントし,その要因を考察しながら指導過程の改善をはかることが授業の原点を確かめる事ではなかろうか。


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