福島県教育センター所報ふくしま No.19(S50/1975.1) -018/026page

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4. 診断的評価の視点からの吟味

授業の展開に当たって,児童・生徒の学習準備状態を知り,学習上の難点とその原因をとらえておくことは極めてたいせつなことである。この目的でなされるのが診断的評価である。診断的評価はその機能的な面からつぎの三つに類別して考えることができる。

(1) 学習のための前提とし必要な能力や技能の診断

基本的な技能や能力を習得していなかったり,必要な先行学習が欠落している場合のように,つぎの学習の前提として必要な条件が満たされていないときは学習の目標を達成することはできない。従って,前提となる条件が満たされていないものについてはこれを補償してやるか,つぎの学習の前提として要求する水準をさげた計画に変更することが必要になる。いづれにしても前提条件の診断なしには,つぎの授業の有効な展開は望めない。

ア 標準学カテストの利用

比較的一般的な能力や技能の弱点を,ある一定の水準との比較において診断するのに標準学カテストは有効である。各個人のプロフィールを学習上の問題点の診断や治療的処理に役立てたり,後続する学習指導を適切に定めていくようにすることがたいせつである。

イ 教師作成テストの診断への利用

能力や技能を細分化し,下位の能力や技能を系列化しておけば,それにもとづいたテストを構成することによって能力や技能の習得レベルをは握することができる。そしてこの能力や技能がつぎの学習の前提となる場合に診断的評価として有効となる。前に述べた形成的評価も診断のために活用することができる。

(2) 学習目標に関する事前の習得水準を確認するための診断

これは,学習目標を学習以前にどの程度習得しているかを確認しようとするものである。これがは握されていれば学習後の結果と比較することによって学習指導の効果を知ることができる。また,学習前にすでに学習目標をかなりの程度習得していれば指導計画を児童生徒に適合するものに改めていくこともできる。

(3)特性に適合する方略を設計し選択するための診断

今日,児童・生徒の個人差に即応して学習指導の方略を多様化しようとする試みがなされるようになってきた。このためには,学習の準備性,問題解決の方略あるいは性格的特性の差異をは握する必要がある。たとえば,プログラム学習やシート学習において学習コースを設計する場合,対象とするクラスの児童・生徒を諸特性によっていくつかに類別し,それにみあう方略として学習コースの設計をする。そして最もよく適合するコースを個々に選択し学習させるなどである。

5. 総括的評価の視点からの吟味

単元,領域,分野,学年の内容全体というように教育過程の全部あるいは一部について達成された学習成果の程度をは握するためになされる評価である。これは,単元テスト,期末テスト,学年末テストなどと考えてもよい。これらは,それぞれ多様な目的のもとになされ,種々な機能をはたしている。しかし,あらかじめ目的を明確に設定して作成し実施するならば結果はより十分に利用できるものとなる。

(1) 総括的テスト作成にあたっての留意事項

一般に成績の評定は5段階法で正規分布に従うものとして各段階の人数を配分している。これを正当化するためにはテスト構成の過程でそうした分布を作り出すようにテスト項目をつくらなければならない。項目をきめるにあたっては困難度と弁別度の規準がたいせつである。

ア,困難度  項目に対する受験者の割合である。一般に,項目の平均困難度が50%〜60%くらいで,困難度の高低が80%〜20%ぐらいまで広がっていればよい分布が得られるといわれている。

イ,弁別度  弁別度の1つの指標は,ある項を正答した できの良い 生徒の比率と,同じ項目を正答した できの悪い生徒 の比率を比較することである。「できの良い」「できの悪い」はそのテストの総点に関して用いられることが多い。この考えによる項目分析のしかたにG.P.分折(good-poor analysis)がある。

まず,テストの総得点に基づいて上位群(G)と下位群(P)に分け,G群・P群各25%ずつとり,項目ごとに正答率を求める。そして,G群とP群の有意差検定を行いG群が有意の差によって高いとき弁別力があるとする。有意差の検定はX 2 検定でも Φ 係数でもよい。 Φ 係数による方法は,両群の被調査者N人,G群の正答率をr l P群の正答率をr 2 とし,
r =1/2(r 1 + r 2
とおく。このとき Φ 係数は

で与えられ,これが より大であれば,5%の有意水準で有意差があるとするのである。

以上,項目の吟味のしかたについて述べたがもっと本質的な課題,総括的評価における各項目をどう構成すべきかを考える必要がある。これは評価の妥当性(Validity)に係わることであり,つぎの手順をふむのがよい。


[1] 評価しようとする内容領域を教材における区分に従って分類し,目標細目分類表を作る(実際的には 教材ごとの指導目標一らん表によってもよい)

[2] 分類表の個々の細目目標に適したテスト項目を作成する(すでに開発された項目の中から細目目標に 対応するものを探し出してもよい)

[3] 多様な細目目標のテスト項目から合理的な方法で,評価に用いる項目をサンプリングする。

[4] 項目を体系的に配列する(たとえば易から難へ)

[5] テストの目的や得ようとする情報との関係から採点方式をきめる。


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