福島県教育センター所報ふくしま No.22(S50/1975.8) -018/026page

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これらの表を概観してみて,いずれも曲線が一見右さがりの傾向を示しているようにみえる。可視的にとらえられるこの傾きは,女子教員による担任年数が長期にわたればわたる程,女子教員によって教えを受けた児童の算数能力が下降していくことを示唆するものと解されよう。しかし,それはあくまでもこれらの曲線を目でとらえ,直感的に解釈を加えた場合であって,この解釈が正当なものであるか否かは,数理統計的な手法による検定をおこなわなければならない。したがって,これらの解釈の妥当性の検定のために,分散分析法による検定をおこなった。下記の表IIの1〜表IIの3は,それらの検定の計算結果である。(教育センターのコンピューター処理による)

この分析の結果,これらの得点分布には有意の差がまったくといっていいほど認められず, 女子教員の教育は児童の算数能力こ有意の差をもたらしはしない −すなわち,女子教員に算数を習うと学力が低下するという仮説は棄却された。

表IIの1(表Iの1の検定)
  平方和 自由度 不偏分散 分散比 備 考
水準 0,533 1,000 0,533 有意水準5%で有意差なし
誤差 56,937 14,000 4,067 0.131
全体 57,470 15,000

表IIの2(表Iの2の検定)
  平方和 自由度 不偏分散 分散比 備 考
水準 0,368 1,000 0,368 有意水準5%で有意差なし
誤差 46,411 10,000 4,641 0,079
全体 46,779 11,000

表IIの3(表Iの3の検定)
  平方和 自由度 不偏分散 分散比 備 考
水準 0,168 1,000 0,168 有意水準5%で有意差なし
誤差 9,576 2,000 4,788 0,035
全体 9,745 3,000

なお,上記の検証結果は,あくまでも小学校児童を対象にしたデータをもとにして検出したものであり,学年が進み,中・高と対象の年齢が高く,思春期までにわたった場合にはこの結果と異なるものが検証されるかもしれない。しかし,あえてそれを含めて推論を加えれば,「小学校段階では教える教師の性差よりも個人差が児童の算数の能力により大きな影響をあたえ,中学入学以降になってはじめて教えられる生徒の性差が前者をより大きく凌駕する」ものと結論づけられよう。この点については,さらに今後の追試をこころみたい。

2. 男女教員の性差と児童・生徒の性格・学力に関する調査について

表IIIの1は,男女教員を対象におこなった,教師の性差と児童・生徒の性格・学力に関する調査のまとめである。この表から読みとれることは,1. 女子教員に比して男子教員に“教師の性差が児童・生徒の性格形成や学力向上に大きな影響をあたえることが強い”と回答したものが圧倒的に多いこと。2. 女子教員は,男女教師の性差よりは教師の個人差が児童生徒にいろいろな影響をあたえると認識している率が高いこと。3. 男子教員の回答では,「大きい影響を与える」「多少影響を与える」「性差よりは個人差が強い」と,大きく群が3つに分かれ,女子教員のそれは,「個人差が強い」「あたえない」の2群に分かれているのが目立った。このことは,男女教師の他の性の教師への評価の特質としてとらえられよう。すなわち,女子教員にあっては,教師の性差の違いは決して教育にマイナスの方向づけをする力として働く要因とはならない。また,女教師の問題としていろいろ世間の話題となっていることは,女教師全体の問題ではなく,(女教師全体に共通するものとしてとらえたくない)ー部の女教師の問題であるという促えかた。

さらには,そのようなことを問題にすること自体が問題であるとして,直感的・無意識的に問題の本質をずらしてしまう思考様式が強く表出された結果と解されよう。

他方,男子教師の思考特性として,男性・女性の性の違いが,時として教師性より一歩さきんじて思考されることがあることを裏書きする結果が表われた。しかし,性差よりは個人差が強く影響をあたえると回答した者もかなりの数にたっし,この点からは女性に比し判断が客観的であることがうかがえる。

表IIIの1,表IIIの2

表IIIの2は,表IIIの1の項目1と2で影響をあたえると思うと答えたものの細部回答である。この表からは,男子教員の40.8%−(表2の1+2)×68.2−が性格形成の面に,18.1−(表2の1+2)×30.3−が学力向上の面に教師の性差が強い影響をあたえると考えていることがわかる。


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