福島県教育センター所報ふくしま No.22(S50/1975.8) -022/026page

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教育図書コーナー

今 道 友 信 ・ 井 沢 純
「 美 し い 心 を 育 て る 」


第 1 研 修 部 舘 野 勉



書店にはいって,教育関係の書架の前にたつと,ため息がでてしまう。むんと,まあ,魅カ的なタイトルの書ばかりがならんでいることか。立場やよってたつ学説のちがいがそれぞれあって,実際の教育の仕事にあたるものは,その書架の前でウロウロする始末とあいなる。やれ,断絶だ,改革だ,教育の危機だ,と言われ,教育への不信が叫ばれ,不安をかきたてるマス・コミの渦の中にあって,流れきたり流れ去る教育思潮にほんろうされているというのが,われわれの偽らざる実感であるかもしれない。

こうした時には,すぐれた教養書でも読んで,かき乱された心をおちつけることが,必要である。

ここに,とりあげたものは,そうした意味において,役に立つ本ではないかと思う。

哲学専攻の大学教授である今道友信氏と倫理学専攻で教育行政にあたる井沢純氏との教育対話である。対話といっても,学問研究を主とする人から教育実践を指導する人が,人間教育の重要な課題について質疑し,解明する方式をとっている。したがって,お二人の間に激しい論議がくりかえされているというものではない。主として,今道氏の人生観や学問論や教育理論についての広い視野と深いどう察力,そしてすぐれた識見を,しみじみと読みとることができる。いや,この場合は聞きとることができるといった方がよかろう。

はじめ美の価値を哲学的に追究する美学の話から,創造的な知育,あこがれをもつ情操教育,美しく生きる芸術教育へと発展していく。今道氏の思想は,人間の理想をよりどころとはするが,純粋理性と実践理性とを分けることなく,反省,超越などを含ませて,人間の向上を目指すところに特色がある。したがって従来の哲学は記述と判断との混同があり,精密なことを真実としているが,人生や学問にとってだいじなことは「美しいこと」「完全なこと」「まこと」に一歩でも近づくことだとする。そこから知性とともに,意志や感情をだいじにする教育論が生まれてくる。

後半では,情操教育や芸術教育の論議がなされる。ここでも崇高な「愛」の思想を基調とした,言語教育,文学教育,音楽教育,芸術教育が語られる。ここでは,原典に親しみ,古典と対決し,伝統を継承し,本物をだいじにすること,新鮮な驚きと知的直観をたいせつにすることが語られている。

<B6,292べージ,1,100円,ぎようせい>



探求の学習をめざした 地 学 教 材 の 研 究 〔小・中・高〕

・全国理科教育センター協議会編
・B5判 176ぺージ,1,200円
・東京書籍株式会社発行



新 し い 化 学 の 実 習 と 探 究 学 習

<小学校・中学校>

・全国理科教育センター協議会編
・A5判 284べージ,1,200円
・東洋館出版社発行


第 2 研 修 部 小 野 寺 寿 雄



「探究の過程」とか「科学の方法」ということばがやっと熟してきた感じのする最近であるが,具体的に,一つひとつの教材について,どのような実験を行ない,どのような道すじをたどって探究させるかということになると,まだまだ解明を要する問題が多い。

ここにあげた2冊,全国理科教育センター研究協議会の加盟機関に所属する職員が,研究の成果としてそれぞれの部会で発表したものを中心に編集したもので,いずれも身近な素材をとりあげ,具体的な実験の進め方について,探究的な手法を中心に述べているので,現場の先生方の教材研究の手ぴきとして好適の書である。以下その内容を簡単に紹介する。

地学教材の研究

タイトルにあるように,小学校から高校までを対象として,新しく開発した教具やそのとり扱い方が中心となっている。地学教材は広大な時間,空間にわたる現象が対象なので,他領域のように簡単に実験室で確かめることができないところに指導の難しさがあり,それだけに,自然現象からデータを集めるためのくふうやデータに基づいて推論するためのモデルの開発が必要とされるわけであるが,本書はその要求にこたえるものといえよう。I章からIII章まで60のテーマがとりあげられており,その中には,岩石・鉱物の調べ方や地質野外観察のし方など基礎的なものや,地域に即した地学教材の扱い方という観点からも参考になるものが多い。

新しい化学の実験と探究学習

小学校,中学校の化学教材について,探究の過程を重視した学習への導入をはかり,代表的な展開例とともに,実験結果のデータがのせてあるのが本書の特徴である。さらに一つひとつの実験について,実験の前提条件が明示されているので,事前に子どもの実態をはあくするときの指標として役立てることができる。内容は物質のマクロ的な扱い,物質のミクロ的な扱い,物質のエネルギー的な扱いなど,5章から成り,合計97の実験例がとりあげられている。また,わずかなべージではあるが,付録として溶液の濃度の表示,濃度の変更のし方,試薬購入上の留意点,おもな試薬の調整法などがのっているのも大変便利である。


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