福島県教育センター所報ふくしま No.23(S50/1975.10) -001/026page
巻 頭 言
第 2 研 修 部 長 鈴 木 宏
昔から“川下三尺”とか“三尺下れば水清し”という言葉がある。これは,汚染の少ない河川に汚水が流れた場合,流入汚水は希釈され,沈降性の汚濁物質は河川床に沈殿する。また,化学的ないし生物化学的作用により,汚水中の有機性汚濁物質は分解される。いわゆる,河川水は流れていくあいだに浄化される自浄作用をいったものである。そのため,河川において洗たくをし,炊事をしても支障はなかったのである。
しかし,この自浄作用には,おのずから限度がある。供給される汚濁物質が増加すればある程度までは,その作用も増すが,限度を越せぱ急激に減少し,河川は悪臭を発生し黒濁するようになる。さらに悪化すれば腐敗の状態になり,魚介類はじめ水棲生物が全滅するようになり,死の河川となる。したがって,この自浄作用がはたらく限度内を守り,河川をよごさないよう注意することが肝要である。
新聞の報道によれば,県生活環境部の昭和49年度の水質訓査により,阿武隈川をはじめとする県内の河川で,BOD(生物化学的酸素要求量)は全体的に良化の傾向にあるが,大腸菌群数,SS(浮遊物質量)については逆に増加していることが明らかになった。また,地域的にみると,下流では浄化の方向にある反面,上流での汚濁の進行が目立ってきている。これは工場,事業所等の排水規制が効果をあげる一方,生活雑排水あるいは開発による緑地等の減少によるものでないかとみられている。そこで,県では水質汚濁の実態と保全対策を抜本的に見直し,総合的な浄化対策をたて,昭和52年3月までに環境基準の目標達成をはかるということである。特に,その対策のなかで,河川では全国的にまだ先例のない排水中に含まれる汚染物質の総量を制限する総量規制方式を,汚濁の実態を分析し,その結果によっては積極的に取り入れるという画期的な施策もうち出されているので,今や,河鹿がすむという仙台市を流れる広瀬川の例もある如く,地域住民の一層の協力により,目標達成は大いに期待できると思う。
このように,環境保全に関しての重要性が叫ぱれているときに,学校においても,排水とくに理科実験の廃液について,有害物質を未処理のまま流すことは許されないことである。現在廃液処理については,便利で,しかも効率的な排水処理装置が市販されているが,価格の面において,この財政難の折から設置は容易ではないと思う。それで,将来は兎も角としても現時点では,現有の施設・設備を利用して,いかに処理すれぱよいか工夫するのが至当であろう。また,実際問題として,理科実験における使用薬品は,小量(ほとんどの場合実害がないくらい)であり,じゅうぶん処理可能ではないかと思う。かつて,理科実験における廃棄物は,たとえ有害物質であろうと何んの抵抗もなく,そのまま棄てられ,しかも,その排水は側溝もなく土中にしみこませている所もあった。これが今日のたれ流しの習性を育てたとも言われるほどである。これからは,当然有害物質は処理して廃棄することをしつけとして,身につけさせるべきであろう。したがって,実験に際して,特に有害物質を取り扱うときは,最小限度の使用量で実験させることが肝心である。そして室内には,有害物質廃液用,重金属物質廃液用等の大型容器を用意し,実験終了後,それぞれの容器に回収し,適当な方法を講じ,処理,廃棄することが望ましい。
目下,理科における公害教育のあり方について論じられているとき,この実践を第一歩としたいものである。