福島県教育センター所報ふくしま No.28(S51/1976.10) -025/026page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

クエスチョン・アンド・アンサー(教育用語解説)

 脱感作法

 脱感作という言葉は,もともと医学や生物学の分野で使われていたものである。たとえば,抗原抗体反応に基づくアレルギー性疾患(気管支喘息,じんましんなど)を治療するとき,感作させる物質(アレルギーを引きおこす物質)を少量ずつ投与し,しだいに増量して過敏性を弱めていく方法がある。これを脱感作療法というが,心理療法,臨床心理,精神衛生の分野では,感情情動反応が弱められ,消去されていくようにすることを脱感作法といっている。

 意識的な不安の解消のための脱感作は,告白や表現などの手段がとられるが,無意識的な不安からの情動障害や行動障害を治療するためには,洞察療法,催眠法,自律訓練法,薬物療法などが用いられる。

 脱感作を系統的に行なう方法を系統的脱感作法という。たとえば,子どもの吃音の治療などで,不安を強く感じてどもりがひどく起る刺激から,弱く起る刺激までの段階リストを作り,この弱い方の刺激から順次に強い刺激に慣らして吃音耐性を作っていく。現在では,登校拒否,シンナー中毒,チック,偏食,とび箱のとべない子の指導,バス酔い,高度恐怖症などの治療に多用されている。

 自律訓練法

 わが国には古来から坐禅という精神統一を図るすばらしい心理療法がある。しかし坐禅は,その目的を達するためには,かなり長期間のきびしい修業が必要とされる。

 また,インドにも坐禅と同じようなヨガ(瞑想ヨガ)があり,精神統一や弛緩を訓練するためには催眠法がある。ヨガ,催眠も,坐禅と同じく修得するにはかなりの困難と日数がかかる。

 このような修得上の困難を排除し,誰れでも比較的簡便に短期間で覚えられる,しかも,禅・ヨガ・催眠などの長所を十分に取り入れられた精神弛緩方法が,シュルツ(独)によって創案された。これが自律訓練法であり,科学的に作り上げられた精神弛緩法といえる。

 自律訓練法は大別すると3つの練習段階に分けられる。すなわち,標準練習・黙想練習・特殊練習である。標準練習は,重さ,暖かさ,心臓感覚,呼吸調整,腹部温感,額部清涼感の6階梯からなっており,この練習が完了してから,黙想練習の色彩心像,事物心像,情動経験・人物心像などの心像視を練習する。特練習に進むものは,身体器官の調整か自己鍛練かのどちらかを練習することになる。

 なお,自律訓練法の修得には,3〜6ケ月を要するのが普通であり,今日のようにスピーディーな世情ではまだまだ手間ひまがかかって練習にあきてしまうものもいる。

 このような人びとにとっては,池見(九州大学)の考真による簡便法(3〜4日間で修得できる)がある。

 自律訓練は心の動きによって引き起こされる病気に特に効果的であるが,教育の分野への利用としては,学習意欲の改善などに用いられたり,あがりの防止や落ち着きの練習,性格の改善に利用されている。

 交流分析

 ジグムント・フロイドによって作られた精神療法に精神分析法がある。しかし,この方法は難解な点が多く,なかなか一般には理解できにくいものである。この欠点を改善したものが交流分析であり,言ってみれば,精神分析の国語版とでも言える方法である。概略を述べると人間の心には,「子どもの心」「大人の心」「親の心」の3つがあり,それぞれが関係を保ちながら,他の人の子どもの心,大人の心,親の心に働きかけたり,働きかけを受けたりしていると考え,それらの交流関係や,心の構造理論を理解することによって対人関係を変えていく方法である。

 親の心とは,本当の愛情をもって子供の成長を助けたいと願う心であり,精神分析の超自我に当る。大人の心とは,心のコンピュータの部分であり,知性の部分ともいわれ,精神分析でいうイゴに当るものである。また子供の心とは,天真らんまんな本能的な考えの働きをする部分であり,精神分析のイドに当る,このような心の3つの部分は,まず子供の心ができ上ってから,大人の心,親の心の構造化がなされていくのが良いとされる。しかし,現代の子供たちは十分な遊びがなされずに成長するためか,子供の心の育成が不十分であり,知的な心=大人の心のみが発達し,よりよい3つの心のバランスがくずれているといわれている。このように心を図式化して理解できるのが交流分析の一つの特徴である。


あ  と  が  き

 所報28号お届けいたします。運動の好季節,丈夫なからだあってこそ立派な仕事もできるというもの。余暇を,見る運動に利用しがちな生活から,からだを動かし,鍛える生活へと変換しなければと考えるのも齢でしようか。

 ともあれ,緊張と弛緩のリズムをととのえ,教育の成果を大いにあげるよう祈ります。


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。