福島県教育センター所報ふくしま No.34(S52/1977.12) -024/026page
心理検査等の結果から,脳電図をとってみる必要を認め,実施した。
右側頭葉に刺波・徐波がみられるので投薬を試みた方が良かろう。 しかし,問題とされる行動の出現は,選択的な傾向もあるので,環境調整,なかんずく,学級集団の人間関係の調整,母親の養育態度の改善によって生ずる効果も大きいと所見する。 7. 来所数回後の一応の指導方針
学級担任に対しては,本児の通所(週1回)の要請と,学習集団作リに偏ることなく,生活集団作りについてもてこ入れし,本児に対する理解と受容の雰囲気も育てて欲しいことを話し合い。学級担任の意見により,特殊学級への入級については,今年一ぱい観察期間とすることに結着。 母親の養育態度については,エゴグラムと親子関係診断検査の結果に,数々の思い当たる点のあることを認め,改善の方法を具体的にアドバイスして欲しいという積極的態度が出てきたので,面接指導を続けることにした。 本人の医療との提携については,投薬の処方変更の資料となる情報を,「当所でのようす・学校でのようす家庭のようす」それぞれ協力して整理し,医師に屈けることにした。 8. 経 過
(1) 本児について
当所では,9回の来所中(診断過程も含めて)工作遊びやゲーム遊びなどを用いての行動療法で,課題場面での正対度の促進がみられたので,緩解状態のまま,通所治療を止め,学級担任との連絡をとりながら学級集団での適応をはかる方法に切替えた。 学級では,学級担任を媒介とした,小人数との工作遊びやゲーム遊ぴの機会を,午前一回,放課後一回継続実施しているうちに,そのうちの一人と.校外での交渉を持ち始めるようになってきた。 いじめっ子グループについては,その担任らと打ち合わせ,本児の状況をわかり易く指導してもらい,受容まではいかなかったが,攻撃的行動はしなくなるように持ち込むことができた。 (2) 母親については,家庭の状況から,父親の役割もとらねぱならぬというような実態を受容した上で,感情の調整をはかるカウンセリングも,母親のみの来所によって継続している。
その変容は,次のようなことにみられる。・本児の行動に対して,その心情を汲みとってから,言動を起こす余裕ができてきたこと。・本児の障害の実態をありのままに受けいれ,医療との提携・教師との協力に積極的になったこと。・社会の眼を,必要以上に気にすることがなくなったこと。
(3) 学級担任について
本児にとって,当面重要なことを理解し,学級経営の偏りについて卒直に反省し,調和のとれた学級集団作りに,研究的にとり組んでくれるようになった。 本児の実態に合わせた当面の目標を明確にとらえ,取扱いに一貫性がみられるようになった。 9. 考 察
(1) この事例の当初にみられるような主訴には,しばしぱ当面するが,その背景は,この事例のような場合ばかりでなく,多様なものであるし,対象児そのものの能カ水準とか,障害によってのみ起るものではない。 (2) 間題とされた行動に直接的な指導を加えることによって効果をあげることを一まずおいて,心身の条件環境条件の調整に手をつけながら,治療をすすめねばならない事例がかなり多い。 (3) 異常のきたされる原因は,遺伝的要因・体質的要因・身体的要因・知能的要因・環境的要因等々,の複合されたものが多いので,慎重に理解すべきである。 特に,遺伝的要因とか,身体的要因,知能的要因についてはその何れか一つについて,顕症的情報を得ると,他の要因と総合的に解釈することを忘れ,限界をそちらに向けてしまう傾向になることに注意せねぱならない。 (4) 診断過程の中で,他の専門的な領域に関する疑診が出たなら,できるだけ早期にその精検を得ることが大切であろう。(もし疑診が否定されれば大へん結構なことであり,治療チームの範囲がせばめられ吾々においてできる面が大きいと喜ぶべきである) ただ,医学的所見が明確に出ると,医療にのみ委ねての解決に流され易いので注意を要する。 上記のことを前提として,下に,脳波の臨床的価値についての表を転載し,参考に供する。
脳波の臨床的価値(Sehwab) 病 名 有価値 無価値 誤判定 脳波単
独価値て ん か ん
頭 痛
種々の神経病
脳血管性障害
頭 部 外 傷
脳膜下膿瘍
脳 腫 瘍
脳腫瘍の疑い
神 経 症
行動異常(間題児)
非器質性精神病
器質性精神病90%
85
70
80
80
90
85
90
80
70
70
705%
10
20
15
10
5
10
5
15
20
20
205%
5
10
5
10
5
5
5
5
10
10
1015%
0
0
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10平 均 約80% 約20% (5%)