福島県教育センター所報ふくしま No.36(S53/1978.6) -015/034page
随想
土
科学技術教育部 押山 峯雄
「天地是在一盆之中」は盆栽を愛好する人の心かも知れない。また,秋の気配が漂う中で,優雅で格調高い,個性豊かな色彩をもつ菊花に見とれているのは愛好家のみではないだろう。老若男女の別なく盆栽や花物栽培など観賞園芸や家庭菜園に汗を流す人々が増加の一途をたどっている。昔は「盆栽は金持ちの隠居趣味」という考えが強かつた。しかし,現在はそのような考えや風潮は姿を消してしまったのであろう。
愛好家が続出し,大衆化しているのはそれなりの要因があるのかも知れない。ある人は生活にゆとりができたからだという。またある人は、世の中が平和な証拠で「平和のシンボル」ともいうべきものだという。いや,そうではない。目常の厳しい勤務からの解放であり,ストレスの解消のためだという。いろいろな要因談義はあるだろうが,どんなに忙しい日でも,苦労や失敗の連続であっても,植栽したものをりっぱに育ててみたいという気持ちとそこに心の安らぎを求めているのは共通な心情であろう。
植栽技術の基本は多方面にわたっているが,特に大切なのは土であろう。土は生命をはぐくむ母であるといわれているが,どんな土を使ってもよいというものではない。園芸店には,鹿沼土や赤玉,桐生砂など所狭しと重ねてあり,異体の知れぬパーライトやバーミキュライトもある。また,腐葉まで販売されているのである。盆栽や鉢物栽培は,籠の中の鳥と同じく,限らた小さな鉢に閉じこめられており,人の手をまっている。鉢の土は人間の住まいに当るもので生育に必要な好条件を要求し,期待しているのである。土は地表面上いたるところにありながら販売されているのは,それなりの理由がある。「人がよいというから,買って使うんだ。」というのでは,はなはだ心細いかぎりである。販売されている土は,植物の生育に適合したすぐれた性質をもっているのはいうまでもない。
それでは,次に鉢物栽培や露地栽培に共通な土のよい条件を1,2拾いあげてみることにする。
その第1は通気性,換言すれぱ水はけがよいということである。植物の根はどんどん伸長し,水分や養分を吸収しているが,それと同時に酸素呼吸もしているのである。この呼吸に不可欠桓酸素は空気から供給されている。また,呼吸作用の結果炭酸ガスが排出されるから,土中の空気は,地上の空気と比べ酸素が少なく,炭酸ガスが多いのである。土中に炭酸ガスが1%以上になると,根の発育は急に悪くなり,その機能も低下するのである。ここに地上の空気と入れかえが必要になってくる。この入れかえは土が団粒構造になっていれぱ白然にうまくいくのである。ところで,ここでいう団粒構造の土とは,細かい土粒が結合して小さな粒になり,さらにこれらの粒がまた結合して少し大きな粒にまとまり━団粒といい━これらが集ってできた土をいうのである。大きさはさまざまであるが,露地の場合1から5o位のものが適当であるとされている。
第2は保水性,つまり水もちのよいことである。水はけがよくて,水もちがよいというのは一見矛眉したように考えられるが,素焼鉢やれんがのこわれたものを思いだせば理解できるだろう。
鹿沼土や赤玉類が使用されるのは,これらの条件を満しているからである。団粒構造の土には,大小さまざまなすき間があり,露地の場合,せまいすき間は保水用,広いすき間は通気用で,この割合が半々か四分六分の状態がよいといわれている。
農家や園芸家はこの団粒構造の土をふやそうとしているのである。土を耕したり,マメ科の植物を栽培したり,腐葉(たい肥)などの腐植をすきこんだりしているのはそのためである。なお、ここで特に注目を引くのは腐植などの有機物の働きである。微生物の働きやみみずなどの小動物の活動を促し,団粒構造の土をふやすぱかりでなく,肥料分としての効き目も大きく,さらに腐植は電気的にマイナスであり,カルシュムやアンモニアイオンなどと結合して,酸性の害をやわらげたり,肥料分の流出を防止するカを持っているのである。最近,兼業農家の続出で化学肥料の多施が問題にされているが,土の酸性化を助長する理由だげでなく,腐植のもつ土に対する作用を重視し問題にしているのである。
植栽の基本は第1に土つくりである。一兄ままならぬ土ではあるが,植物の生育に適合した土つくりがいかに大切であるかがわかるのである。土は生きているということができるのである。一方,教育に目を転ずると,教育もまたその土壌が大切だといわれている。その意味するところを粗しやくし,全カ投球が必要なのである。