福島県教育センター所報ふくしま No.40(S54/1979.2) -001/030page
巻頭言
性格について思うこと
教育相談部長 横内 直典私はある時,こんな話を聞きました。それは,「子どもというものは,元来親の言うことを聞かないものなんです。そういうことを前提に育てなければ,親は情緒障害に陥ってしまうでしょう」ということでした。
当教育センターに相談にみえられる親の中には,「子どもは親の言うことは何でもそのままよく聞いてくれ,極めて育てやすく,『素直ないい子』でしたが,最近,急に言うことを聞かなくなり,本当に困ってしまいます」と訴える方がおられます。しかし,考えてみると,子どもは親の言うことを聞かないのが当り前で,これは,ある意味で健康であり,よく聞きすぎる方がむしろ問題があるようです。
ただ,子どもは親の言うことは聞かなくとも,親のやっていることは,知らず知らずのうちに,よくまねをしています。よく「うちの子はお一父さんに似て短気で困ります」などということを聞きますが,性格について,欧米の有名な心理学者クレッチマーやオールポートまたはマクドウガル,わが国では宮城音弥教授らの説を総合しますと,「性格は,体質と関係の深い気質とか素質という生まれつきの基盤の上に,環境や体験,または習慣などの影響で形づくられるもので,後天的なものである」と考えるのがいちばん妥当のようです。
「幼児の性格は家庭でつくられる」「三つ子の魂百まで」……幼い時につくられた性格は,ともすると,その人の心を一生支配するものです。子どもが豊かに,伸び伸びと成長していくためには,家庭内の愛情,円満な暖かい家庭のふんい気がなにより必要なことはいまさら申すまでもありません。子どもが成長して社会に巣立つ日まで,世の荒波から守ってくれるのも家庭だし,将来社会人として立派に一本立ちできるように,しつけなり,教育をしてくれるのも家庭です。家庭の保護やしつけが,過不足なく行われていれば,健全な性格ができあがるということになります。
性格は,このようにしてつくられるものですから,精神分析とか,その他の心理療法などで,改造・改善することは可能であって,決して悲観するものではありません。しかしながら,5年も10年もかかってつくられた性格が,わずか4〜5回やそこらの面接で,たちまちにして変わるというわけにはまいりません。にもかかわらず,注射1本でかぜが治るというような錯覚に陥り,何とか一日でも早く,しかも,2〜3回の面接で治してほしいという無理な注文をされる方が多いのには困ります。こんな人に限って,少しよくなると治ってしまったつもりになり,他人の話も聞かないで,もう安心して止めてしまいがちです。
子どもが不適応を起こさないためにも,家庭のあり方について考えるとともに,腰をすえてじっくりと性格を治すことを心がけてほしいものだと思います。