福島県教育センター所報ふくしま No.40(S54/1979.2) -002/030page

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特別活動

「学級指導」のねらいと資料の役割

経営研究部  車田 喜宏

学級指導とは,“ 学級 を単位として行う生徒 指導 である”,という意味が忘れられ,ともすると表面的な解釈をし,形式的なとらえ方をされることが多い。

学級指導は教師による計画的指導であって,学級会活動は児童生徒の自発的・自治的活動である,というように,“指導”と“活動”ということばにのみ目をむけた安易な割り切り方はその一例である。

学級指導が, 学級を単位として行う生徒指導 であるということからもわかるように,学級指導の究極のねらいは,児童生徒の「自己指導の能力」を育成していくことにある。

自己指導とは,ことばをかえれば,児童生徒が自分のもっている人間的弱さを克服していくことである。そのためには,自己理解(人間的弱さの覚知),自己表現(人間的弱さの表現)というプロセスをふませることが基本になるといわれている。

したがって,このようなプロセスを無視し,児童生徒に対して,あるべき姿(理想的な姿)やとるべき行動を明示した資料を準備し,それによって教師の意図したゴールに導いていっても,児童生徒の自己指導の能力を伸ばすことはできない。

このことから,学級指導における資料のとりあげ方は,学級指導のとらえ方や授業の展開のし方と本質的なかかわりをもってくる。

1.自己指導の育成をめざした学級指導

学級指導では,まず第一に,児童生徒一人一人のユニークな特性を重視し,大切にしてやることを基本としてスタートする。

つまり,一人一人の児童生徒が,自分のあり方を,自分の特性に応じて自由に考え,自分で選択し,自分で決めることを大切にしていくことである。

例えば,家庭学習のあり方を指導するとき,児童生徒一人一人の特性を考えることなく,「学校から帰ったらまず学習しなさい。それからゆっくり遊びなさい」といった方向ずけをすることがよくある。しかし,子ども達一人一人を考えるとき,帰宅後すぐにとりかかる方が効果があるもの,明るいうちは戸外で存分に遊んで夕食後に学習した方がよいというもの,家へ帰ったらすぐに眠って夜中に学習した方が能卒があがるというもの,等々いろいろな特性をもっているものである。このことを無視して,彼らを一般化して扱ったり,一般化した方向へ向かわせていくことは不適切な指導であるということになる。

もちろんこのとき,自分の主体性のみを尊重して,他人の主体性を否定したり,脅かしたりするような選択が許されないのはいうまでもない。

学級指導ではまた,そこで取り上げる問題(題材)はあくまで手段であって,それの解決そのものがねらいではないことに留意する必要がある。その問題を自ら解決していくという努力の過程を通して,一人一人の児童生徒の自己指導の力をより大きく育てていくことが,学級指導の究極のねらいにされなければならない。つまり,「この場面では,どのような行動をとるのが最もよいのか」を,自ら考え,自ら判断し,自分で実行できるような児童生徒を育てることである。

「廊下の歩行について」という題材をとりあげたとき,児童生徒全ての結論が“廊下は走らないようにする”ということになるのでなく,“この場合には廊下を走ってもよい,この場合には静かに歩くべきだ”ということをできるだけ自分で判断し,実行できる子どもを育てることを指向した指導が大切なのである。学校の廊下を考えるとき,常に静かに歩かなければならないとみるのは現実的でなかろう。友人がケガなどをしたときは廊下を走って,素早く教師に知らせることの方が最も適切な行動であるといえる。このように,状況判断のできる場面構成を授業にくんでいくことが大切になってくる。

わたしたち教師は,余りにも抽象的・静的な状況に立脚した姿を,常にとるべき姿として児童生徒に示すことが多い。また,児童生徒のあるべき姿やとるべき行動をあらかじめ教師が用意し,それを指向する資料を与え,このあるぺき姿に沿う子どもの発言のみを大切にとりあげ,その方向に誘導していくことが多い。

このような指導では,児童生徒に具体的行動として身につかないことを嘆く結果になる。それは,児童生徒を“生身”(なまみ)の存在として,具体的存在としてみることをせず,一般化・抽象化された存在としてとらえていくことに起因しているといえよう。

2.指導過程と資料

学級指導をよりよく展開していくためには,まず学級の中に,どんな人間的弱さや欠点でも,率直にみんなの前に出すことのできる受容的ふん囲気が存在していなければならない。そのようなふん囲気や温い人間関係の中


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