福島県教育センター所報ふくしま No.47(S55/1980.8) -001/034page
巻 頭 言
一人ひとりの子を大切にする教育を
次 長 羽 田 義 光
過日,全国教育研究所連盟総会,都道府県・指定都市教育研究所長協議会に出席する機会があった。 この二つの会議をとおして強く心に残っていることは,経済発展の高度化・社会の都市化・大衆化・ 価値観の多元化など社会情勢の急速な変貌,そして,それは80年代もさらに進展していくことが予想 される現代,教育のあり方についての期待が大きく動いているという印象である。我が国にとって, 第三の教育改革の時代 とも言われている今日,改めてその意義をしっかりと再確認しなければな らないということと同時に,教育にたずさわる者としての責務の重大さをひしひしと感ずるものがあ った。
近時,教育界にマスコミや識者から次のような意見がよせられているのを耳にする。例えば,「我が国の学校は型にはまりすぎ,そのために教育の成果を鈍らせている。」とか,「我が国にもごく近い将来老齢化社会現象が到来するので,次の世代をになう子どもたちの教育はいっそう重要である。」あるいは,「現在の子どもたちが国際社会に果たすべき役割は,今日のおとなのそれに比べ著しく増大することは必定である。」とか,「現在の学校教育には理想とねらいはあっても,それを実現するための具体的な方法は未開拓である。」などの意見である。このような意見や主張を聞くにつけ,ますます学校教育における課題の重大さ,難しさを覚えるのである。
ところで,中央教育審議会の答申(S46.6)をうけて教育課程審議会が 教育課程の基準の改善 を答申(S51.12)した。その基底にひそむ学校教育に対する要請を一言でいえば,真に一人ひとり の子どもたちを愛し大切にした教育の推進である。それは,学習意欲の喪失,怠学,ノイローゼ,は たまた自らの生命を絶つ,他人をあやめるという,いわゆるおちこぼれの児童生徒を一人も出さない 教育であると言える。ゆとりのあるしかも充実した学校生活の創造が強調される理由もそこにある。 今,厳しく問われていることは,新たな視点に立って真剣に,児童生徒一人ひとりの成長を考え,現 に目の前にいる子どもたちに適した教育はどうすればよいかの根本的な見直しと,その具体的な方策 の樹立であろう。
そこで,一人ひとりを考え大切にする教育 をすすめるために大切な教師の心構えとして次のことを指摘したい。一つは,すぐれた洞察眠である。社会の進展に対する先見性と,個々の子どもたちはいま何を求めているか,を適確に把握する教師としての力量を持つことが大切である。二つは,自己変革に対する勇気である。一人ひとりを大切にする教育では,児童は教師と共に伸びる と言われるので,教師自らの変容を重視したい。授業の中に,授業者の子どもを見る目,教師自身の人間としての生き方が如実に現れてくるのを,参観するたぴに痛感する。自己を厳しくみつめ,いたらぬ点を素直に自覚し,ちゅうちょすることなく改めるべきことは改め,つねに成長しようとする前向きの姿勢が必要である。三つは,実践的教育研究の手法を身につけて教育活動を実践することである。研究の手法を駆使しての実践結果には,児童生徒一人ひとりの変容が浮きぼりにされた資料が累積する。したがって,教師としての喜びが児童生徒の日々の伸張を知り得た時にあることを思うと,研究手法を身につけての教育実践は極めて重要なことと考える。
ともあれ,千差万別の児童生徒一人ひとりの可能性を信じ,一人ひとりの子どもの持つ個性・能力を最大限に伸張する学校教育を強力に准進することが望まれる。