福島県教育センター所報ふくしま No.47(S55/1980.8) -002/034page
小学校教材
地球儀とその指導
教科教育部 吉 田 伊勢吉
1 はじめに
近代学校教育が発足した明治5年の文部省布達に おいて,教具として地図と共に地球儀が取りあげら れている。以来,学校では,地図の原典ともいうべ き地球儀を重要な教材備品として取り入れてきたが, ともすると十分な指導は行われないで,装飾的に扱 われてしまったのではないかと思われる。地球儀は 地図と比べて取り扱いの不便であることが,その利 用が進まなかった一因であろう。
宇宙時代に入り,グローバルに事象をみる機械の多くなった現在,日常生活の中に地球儀の利用は不可欠なものとなってきた。
新学習指導要領(社会)では,小学校6年の内容 (3)のウに「我が国が世界の国々と貿易の上で深 いつながりをもっていることを具体的事例を通して 理解し,地球儀を用いて,その主な国々の位置を確 認するとともに・・・・」と示して,従来より地球儀 の活用を重視している。
地球儀を社会科の学習で使う意義は,大きく分けて二つある。一つは,球体としての世界認識を育てるためであり,二つは,世界全図などの小縮尺の地図の特徴,特に表現上の限界を理解させるために,地図と地球儀を対比して考えさせることである。
2 マルチン=ベハイムの地球儀
イタリアのナポリ博物館には,紀元前4世紀ごろ に作られたと推定される直径2mの地球儀が所蔵さ れている。この地球儀は,ギリシャ神話に出てくる 怪力無双の巨人アトラス(Atlas,神に反抗した罰と して天を支えている人の意)の肩に支えられている。 1595年に出版されたメルカトルの地周帳名は, ア トラス,すなわち世界の創造と創造された世界の姿 に関するコスモグラフイカの考察 とした。これが 奇縁となり,地図帳のことを一般にアトラスという ようになったといわれる。
作者や製作年代が明らかで,しかも現存する最も 古い地球儀は,西ドイツのニュールンベルク博物館 所蔵のマルチン=ベハイム(1459〜1506,ポルトガ ルのジョアン1世がつくった天文学研究所教授)の 地球儀で,1492の銘がある。この地球儀は,直径 50.7cm,経緯線ははぶかれているが,赤道,南北回 帰線,南北極圏がひかれ,赤道には経度360度,リ スボンから経度80度西のところに一つだけひかれた 経線には,南北にそれぞれ90に分割されて目盛がつ
15世紀末の地球図 マルチン=ベハイムが1492年につくった地球儀による地球図で,日本がジパング (Gipangu)として記されている。(文献1.P254より)