福島県教育センター所報ふくしま No.60(S58/1983.02) -014/038page
受講者の感想
教育研究法講座と私
福島県立安積高等学校 教諭 佐 藤 隆 夫
所員21名で,教育センターとして最も力を入れている講座です。皆さんに,教育研究の手法の実際を身につけてもらうために,私たちは側面からお力添えをいたします。−センター代表のあいさつがひびいた。「手法の実際を身につける」ことは,私の精神的飢餓感を満たしてくれるだろう。期待を深めながら,次第に深く分け入ることになった。講座は,前期(6月),中期(9月),後期(1月)に分けられ,それぞれ4日間,計12日間にわたった。前後の作業を含めると,8か月にも及ぶものであった。小・中・高校の39名の受講者にまじり,私は必死になって,メモを取る習慣を通したのであった。前期。講義が続いた。飢えた心にしみ通った。センター編集の冊子を参照しながらの「教育研究の進め方」(吉田伊勢吉先生),多くの文献を渉猟してそのエキスを紹介しながらの「教育研究法概論」(長谷川寿郎先生),授業を分析する意義,視点,立場,方法,記録,課題を説かれた「授業分析の基礎理論」(羽田義光先生),授業現場から見受けられる「学習指導上の諸問題」(小林四郎先生)。この四つが,研究入門生に,目をさまさせ,視点を与え,見通しを持たせてくれた。私も,問題がひそむ場面をつかみ出して自分がしてきた授業ぶりを反省しないではいられなかった。ノートの文字が乱雑になり,自分だけわかる省略符号で書いたりしながらも,真剣だった。腕が痛かった.指先が固くなっていた。
科学性の低い常識的研究法から脱却して,科学性の高い正規の教育研究法を実践していく手順が,段々示されてくると,初見参の術語に出くわす。研究構想のW型問題解決モデル。研究主題と仮説。いずれも常識でわかるものだが,意欲を持って直面する者には,何とも目新しく耳新しく響く言葉であった。検証計画。一群法、これらも新鮮な語感で迫ってくる。講義に続いて,小型電子計算機を使ってするデータ処理演習(上川洋行先生)を初体験。有効度指数。把持率。散布度。これらの言葉も研究へのロマンをかきたてる未知の世界の言葉であった。期末には,自分の研究の主題と仮説の立て方について,所員の方々から懇切で詳細な指導を頂き,事前に作って持参した刷り物の訂正と書き直しをし,次第に明るい方向が見えてくるのは,うれしかった。帰校後すぐ,「英語の読解力を伸ばす指導」について,先行研究物を探し,参考にする関連理論集めに走った。
中期の初めに,梶田叡一先生の講義「学習指導と評価」を聴く。到達度評価,形成度評価こそ.最緊要で正しい評価だとの説に熱い共感を覚えた。続いて近くの小学校で,佐藤千恵先生の国語教材「石うすの歌」による授業を参観して来て,参加者全員での授業研究会となった。小学校の先生方の,何と進んでいることよ。事前事後の視点の通った研究のしかたは,もっと多くの人が注目すべきだ。データ処理演習ののち,仮説を検証するための計画樹立。帰校するとすぐ,事前調査の再整理,仮説をおろした検証授業の反復実践と記録,事後調査の整理統計,データの処理と結果の分析,研究の考察とまとめと研究報告書の作成等々に明け暮れた。
その研究報告書39冊をまとめて1冊本に製本したものが,後期初日に配られた。成就感と充足感を受講者に与えた、労苦と認耐の産物であった。講義と演習と指導相談とを下さった諸先生と。精励をいとわないできたもう一つの新しい自分自身とに,そっと感謝した。更に愉快にアルゴリズムを語られた講義「授業における思考の諸問題」(駒林邦男先生)今日的先端的な「学校教育をとりまく諸問題」(古関富男先生)の講義と,「教えることと学ぶこと」を漢文古典から説き起こされた佐藤信久先生の講演。三人三様の温かい語りロが耳に残った。所定の持ち時間を一ぱいに使って発表した報告会。代表委員として行った謝辞三回とお別れの言葉。どれも,場面にふさわしい言葉を選んで話したつもりだった。
記念写真と報告書合本のはかに,11冊の研究文書と録音テープ8巻が残った。飢餓感を救った記念碑。