福島県教育センター所報ふくしま No.79(S61/1986.12) -036/038page

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随  想

額 に 汗 し て

教育相談部  岩城 教夫


 8月,庁内ソフトボール大会が行われた。出場資格のきまりから高年齢層の選手として出場させてもらった。しばらくぶりで楽しく壮快な一時を体験した。運よく相手チームのピッチャーが年齢に敬意を表してくれたのか,手ごろのボールを投げてくれたのでうまくホームランが打てた。反省会で大いに気をよくして痛飲した。内心,まだ大丈夫,年のわりにはよくポールがのびたものだなどと思ったりした。まあ,たわいもないことなのだがこの機会に考えてみたいことがいくつかある。

 よく,プロ野球のナイターを見ていて感じることだが一流打者は大体腰が大きくすわっている感じでどっしりしている。太ももが大きく安定している。中学,高校の野球部員はよく走ることと,タイヤをひもで腰に結びつけて校庭をグルグル回ることを毎日かかさずしている。多分,足腰をきたえるためにしているのだろう。中学時代,少々野球をしていたが,自分はそういうことを一度もしたことがない。しかし,わりと打った方だと思う。足腰が自然に鍛えられていたためかも知れない。それに50歳のこれまで病気らしい病気をしていない。それらの理由がいくつか考えられる。

 終戦の時,小学3年生であった。前の年,だんだん日本にとって戦況がおもわしくなくなり農業をしている伯母の家に引揚げてきた。伯母は一人で1.5haの田畑を耕作していたが,私達兄弟はみんなで手伝った。終戦間際の食糧難の時代今みたいに機械もなくすべて鋤,鍬の時代で手にまめを作って働いた。今考えると不思議な気もするが,農家に事業税がかかり.現金収入がないので兄は旧制中学をでるとすぐに代用教員になり,田畑耕作の手伝いはほとんど自分一人でせざるを得なかった。夏の暑い日,豆畑の草取りほど嫌なものはない。かがむと豆のさやが丁度目の高さになり顔がちくちくするし,腰は中腰なので痛くなるし.地面の熱気がむんむんし汗が目に入る。背中にたらたら汗がつたわり,手は汗で泥だらけ,一番嫌な仕事は草取りだった。又田植の時のくろぬりほど腰を使う仕事はない。鍬の上にどろどろの田土をのせて田のあぜにぬり,腰を入れて何回もたたきつける。しっかりやらないと水がもるからごまかしができない。腰が痛くて夜寝るのに苦労した。畑を耕すのも右うないばかりでは疲れるので,左うないもする 中学,高校,大学と同年配の友達が部活動をしている時それを横目に見ながら働いた。辛抱強さ.腰の安定,左手の強さ等田畑から12年にわたって身につけさせてもらったものかもしれないし,約30年間ほとんど病気にならないで年1・2回のソフトポールをそれなりにできるのもその時に蓄積された筋の強さ,貧しさやつらさに耐える力を少しずつ使っているのかもしれない。少年のころの社会情勢や自然環境がすばらしい教育をしてくれたのだと思う。

 先日,相談に来所されたご夫婦が丁度自分と同じ年頃の方だった。色々相談しながら”時にはお子さんと一緒にふざけたり.大きな声で歌ったりしてみては”といったら,真面目な顛をして“どのようにして遊ぶんですか”と当惑した顔でいい“子育てって,こんなにむずかしいのですか,私の両親もこんなに苦労したのかなあ・‥”とため息をついているのを見て深く感じるところがあった。それにしても今の子どもたち,それこそ額に汗して働いたことがあるのだろうか。小,中,高の各時代の体験をとおして生きる強い力,すばらしい力が蓄積され,何十年にわたって彼等を支えてくれるようなものがあるのだろうか。ため息ついたり,時代がどうの,家庭がどうのといっても解決にはならない。義務教育だって9年もある。高校,大学と数えると16年にもなる。16年も一つのことを続けたら.すばらしい力になる。額に汗して働けるものを子ども達と考え,即実行したいと念じている毎日である。

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