福島県教育センター所報ふくしま No.80(S62/1987.2) -001/038page

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  巻 頭 言

渡辺氏写真

   情報化社会の到来と自己教育力の育成


  科学技術教育部長   渡 辺 専 一


 コンピュータとマスメディアの急激な普及によって情報化はますます進みつつある。最近は,これに加え,キャプテンシステムなどに代表されるいわゆるコンピュータによる情報処理機能と映像メディアとの連携も図られ,ニューメディア化が一層進みつつある状況にある。
 このような状況の中で,子供たちが大量の情報の前に,常に受身的になってしまうとすればきわめて問題である。テレビや雑誌などマスメディアによって送られる情報量は非常に多い。しかもそれらは,送る側にとって受け手を十分に引きつけるよう工夫されているため,子供たちは与えられるまヽに不消化のままで吸収してしまう危険性を持っている場合も多いと考えられる。
 本センターにおける「自己教育力育成のための実践研究」の中の実態調査からみても,「課題意識を持って物事にとり組む姿勢」,「見通しを持って課題解決に向かう態度」,「他と共に自己を高めていこうとする態度」,「困難をのり越え解決しようとする強い意志」などの,いわゆる自己教育力の基本的要素が特に低い状況にあることが認められる。
 中央教育審議会,臨時教育審議会及び教育課程審議会等においては,こうした実情をふまえてこれからの教育実践の中に「自己教育力の育成の必要性」を提言したのである。一人一人が生きることに目標をもち,問題解決のための能力やそれにとり組む強い意志を備えているならば,今後一層進展するであろう情報化社会において,豊富なメディアの中から適切な内容を選択し,これを利用し必要な情報を自己の学習や生活に役立てていけるようになるであろうという趣旨である。
 さて,これからの時代に生きる人間のあるべき姿を考えるとき,少なくとも次の3つの能力を備えていくことが必要だと考える。まず第一に「必要な情報を選択できる能力」である。すなわち,多種多様なメディアの中から,どのメディアによってもたらされる情報が最も適切であるかを判断し,そのメディアを選択できる能力である。第二に「集められた情報を処理する能力」である。すなわち,自らの手で選択しとり出した情報を整理し,そこに自分なりの意味づけを行うことによって全体をまとめることのできる能力である。第三には「あるべき方向について意志決定のできる能力」である。与えられた情報を選択できることのうえに,これからの社会にあっては単に情報の受け手や利用者にとどまらず自らのアイディアや意志で新しい方向を創造,行動できる能力を持つことが必要である。
 学校における教育実践活動にあたっては,このために,いかなる学習場面を提示し,いかに学習を展開させていくかの検討を早急に行う必要があると思うが,基本的には「課題解決の方法の学習体験」を中心とした指導が教育活動の核となるよう心がける必要がある。とかく学び方を学ぶ学習は.指導者にとってきわめて骨の折れる指導活動ではあるが,そのことが結果として.子供たちに「自己を伸ばそうとする潜在力」を育てることにつながることであるだけに真剣にとり組みたいものである。
 自己教育力は,望ましい人間形成という視点から,当然培われなければならないいわゆる教育本来の根本原理であるとも言える。それだけに,我々教育に携わる者にとっては,この意味を十分理解するととも,常に子供の幸せのために新たな課題解決に向けて努めなければならない。また,そうした教師の姿勢そのものが子供の自己教育力高揚につながることも忘れてはならないと思うのである。

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